1月28日、Operaの創業者で元CEOのJon Stephenson von Tetzchner氏が率いるVivaldi Technologiesから、突如として新たなWebブラウザ「Vivaldi」が発表された。まだ開発中の製品ながら、マウスジェスチャーや複数タブの統合など、かつてのOperaを思わせるユニークな機能がブラウザマニアの間で話題となっている。

今回、同じくOpera出身で現在はVivaldi TechnologiesのCOOを務める冨田龍起氏に、同社本社のあるノルウェー・オスロにて話を聞く機会を得ることができた。Vivaldi開発に至った経緯、今後のロードマップ、そしてWebブラウザというソフトウェアに対する思いを存分に語ってもらったので、ここでお届けしたい。

突如として発表された新ブラウザ「Vivaldi」。本稿執筆時点ではバージョン1.0.118.19が最新のテクニカルプレビュー版となっている

Operaの歴史とVivaldiの前史

インタビュー内容を掲載する前に、OperaとVivaldiをめぐる状況を一度整理しておいたほうが良いだろう。

Tetzchner氏が創業したOpera Softwareが開発するブラウザ「Opera」は、軽快な動作、高度なカスタマイズ性、携帯電話やゲーム機なども含む対応プラットフォームの幅広さなどで知られ、インターネットユーザー全体に占めるシェアは小さかったものの、独自のユーザーを獲得していた。

しかしTetzchner氏は2010年1月、同社CEOのポストを後任に譲って経営の第一線から退き、さらに翌2011年6月には同社を去る。Tetzchner氏がOperaを辞めた理由は公式には説明されていないが、その後の報道などを見る限り、長期的な視点に立ってブラウザの開発を進めていきたい同氏と、四半期ごとの業績最大化を重視する他の経営陣やステークホルダーとの間には、埋められない溝ができていた模様だ。

Vivaldi TechnologiesのCEO・Jon Stephenson von Tetzchner氏(同社提供画像)。現在はボストン在住。ノルウェー・オスロのベンチャー企業向けワークスペース「StartupLab」の一部が同社オフィスで、Tetzchner氏はこの施設の出資者に名を連ねている

その後の2013年、Operaはバージョン12を最後に独自開発していたレンダリングエンジンの採用を終了し(セキュリティアップデートのみ継続)、以後のバージョンはGoogleのChromiumプロジェクトをベースとしたブラウザとして提供する方針を発表。

新生OperaはChromiumの開発成果を活用したシンプルなブラウザとして再出発したが、名称こそ同じOperaであるものの実装された機能は大きく異なっており、従来のOperaユーザーからはOpera 12以前とOpera 15以降(バージョン13と14は欠番)は別物のソフトウェアとして認識されている。

ChromiumベースとなってからのOperaにも継続して機能は追加されている(Opera SoftwareはChromiumプロジェクト内でエンジン開発の主要コントリビューターの1社となっている)が、独特の軽快な操作感や細かなカスタマイズ機能を求め、現在もOpera 12を使い続けている一定のユーザーが存在する。

数年間の沈黙を破って再びブラウザ市場へ帰ってきたTetzchner氏は、Vivaldiを「A new browser for our friends」と呼んでおり、かつてのOperaを愛用する/していたユーザーの受け皿となることを目指して開発された製品であることは間違いないようだ。

ここまでが簡単なOperaの歴史とVivaldiの前史だ。今回話を聞いた冨田龍起氏は、2001年に日本人社員第1号としてまだ小さかったOpera Softwareに入社し、ノルウェー本社勤務を経て米シリコンバレーや日本でのビジネスの立ち上げや、テレビ等への組み込みブラウザ事業などを担当した人物で、VivaldiではCEOを務めるTetzchner氏と共に戦略立案やマーケティングにあたっている。

Vivaldi TechnologiesのCOO・冨田龍起氏(同社提供画像)。ノルウェー人、アイスランド人が多くを占める社内で唯一の東洋人メンバーだが、それを意識する場面はほとんどないという

冨田氏は現在はシリコンバレー在住で、ノルウェー・オスロとアイスランド・レイキャビクにある開発拠点を訪れる出張の合間に今回のインタビューが実現した。それでは、Vivaldiが生まれる前夜の物語から聞いていこう。