機器のコンパクト化が産み出した多大なメリット

ロボサージャン手術では、前述したとおり、術者がさまざまな機能の搭載されたヘッドマウントディスプレイを頭に装着する。上記で説明した、切開部位のシングル化や二酸化炭素ガスの不使用といった手術法としての進化に加え、大きな機器を術者がのぞき込むダヴィンチ手術とは一線を画す、機器のコンパクト化による進化が、以下のものになる。

ロボサージャン手術のイメージ (出典:東京医科歯科大学 腎泌尿器外科学教室 Webサイト)

1. 多角的な視野の確保

ヘッドマウントディスプレイには、内視鏡の拡大3D画像や術中超音波画像、さらにMRI画像などを並べて表示することが可能だ。「がんや血管や組織の境目を、手術参加者全員で拡大・立体視し、術前の画像や術中超音波画像を同時に見ながら、より正確に、安全に手術を行えるようになりました」と木原教授。ちなみにここで使われている3Dは360度回転ができる。

さらに、「術者がヘッドマウントディスプレイの前に指を2本出すと2画面、5本で多画面という風に、手術中に余計な時間やストレスをかけることなく、見たい複数の画面に切り替えることも可能になりました」(木原教授)。

2. 内視鏡と連動した柔軟な視野

このヘッドマウントディスプレイにセンサーを付けることで、内視鏡を持つロボット(内視鏡操作ロボット)と連動させることができる。術者の頭の向きに合わせて、手ぶれなく内視鏡を動かすことができる。「もっと右の方を見たいと思ったら、頭を右に向けます。内視鏡もスムーズに連動するため、見たい部位が目の前に映し出されるのです」(木原教授)。

3. 肉眼での確認も可能

このディスプレイを装着したまま、視野の下半分では手術室の様子や患者を見ることもできる。手術部位だけではなく、肉眼で全体像を確認できるようになったのは、コンパクトな機器ならではのメリット。ダヴィンチ手術では、術者が患者と離れたところから操作しているため、肉眼で手術部位や患者を確認することはできない。

4. 画像の共有化

多数のヘッドマウントディスプレイに同時に同じ画像を映し出せるため、多数の医療者が同じ情報を共有した状態で手術を進めていくことができる。また、画像の方向を個別に変換することができ、手術参加者の立ち位置によらず、共通の方向感覚で手術が行える。

5. 触覚の復活

「ロボサージャン手術のもうひとつの特徴は、"触覚(抵抗感)"を生かして手術操作を進めることができること。たとえば血管を周囲の組織から分ける際でも、手で直接器具を持っているおかげで、わずかな抵抗でも敏感に感じ取ることができます。繊細な人間の手の感覚を使うことは、より安全な手術につながります。ダヴィンチ手術で用いる多関節鉗子は優れた動きを示しますが、手術器具を遠隔で操作するため、こうした触覚は術者には伝わらないのです」(木原教授)

6. 手術器具の進歩

ロボサージャン手術で欠かせないのが、手術器具の性能だ。この手術は、ごく小さな切開部位から手術を行うため、長い棒状の器具を使用する。この器具はダヴィチの多関節鉗子のような動きはないが、平面上の回転は自由自在にできる。

「たとえば、血管を切断するときでも、器具の先端で血管を挟むだけで、血管を凝固止血して切断できる機器も登場しました」と語る木原教授は、「こうした技術開発によって、より小さな切開からでもより安全な手術を実現できるようになったのです」と続ける。このように、機器がコンパクトになり人間と一体化することによって、まるで映画の世界に迷い込んだかのような、技術革新がもたらされているのである。