ゼンハイザージャパンは4月28日、ヘッドホンシステム「HE-1」の発表会を開催した。約55,000ユーロ、日本円にして600万円オーバーの超高級ヘッドホンだが、ひと足ならぬひと耳早く試聴できたのでそのレポートからお伝えしたい。

HE-1

音場はゼンハイザーのフラッグシップへッドホン「HD800」の何倍も広い。不思議なことに、左右ステレオだけでなく前方、後方からも音が迫ってきて、音に包み込まれるような感覚におちいる。高域・中域・低域のバランスはどうか……などと頭の中で整理する気にはなれず、そのさわやかさ、クリアさ、パワフルさに体がただ圧倒される。みずみずしく生命力あふれる音で、非常に魅力的。感動すら覚えた。

装着感もよい。締め付けが程よいので、うまく頭にフィットする

なんと言うか、サウンドと自分の一体感がものすごいのだ。装着していると、自分というコップに音がとくとくと注ぎ込まれていく感覚がある。しかし最終的にコップは溶けてなくなり、自分とサウンドが融け合っていく(ように感じる)。ボーカルにリップシンクを重ねると、自分がノラ・ジョーンズになったのではないかと錯覚するほどだ。それだけ、ボーカルが自分の体からあふれ出るように聴こえてくる。ゼンハイザーはヘッドホンではなく、「音に命を注ぎ込む装置」を作ってしまったのか、というのが素直な感想だ。

1991年に発売された「Orpheus」構想時のスケッチ

開発担当のマニュエル・リッケ氏

発表会には、ドイツから開発担当者であるマニュエル・リッケ氏が登壇。HE-1に投入された技術について話した。

HE-1は、1991年に300台限定で発売された超高級ヘッドホン「Orpheus」の後継機だ。イタリアで切り出した大理石の台座に、8本の真空管を搭載していることが大きな特徴。真空管の材料自体はチェコ産だが、開発はドイツの工場で行われている。電源ボタンを押すと、ヘッドホンを収納するボックスが自動で開き、真空管がせり上がるという演出も見所だ。

【動画】HE-1の起動シーン

前身のOrpheusはデジタルアンプを1基しか積んでいなかったため、電気的なパワーがヘッドホンに届くまでに7~8割ほど失われていた。HE-1には、台座部分にデジタルアンプを1基、ヘッドホンの左右ユニットにアナログアンプを1基ずつと、計3基のアンプを搭載。さらに低電圧用のケーブルを使用することで、ロスなく音を伝えられるようになった。歪みの少なさも大きな特徴で、THD(全高調波歪)は0.01%。一般的なモニターヘッドホンが0.3%程度、HD800が0.02%であることを考えると、圧倒的な数値であることがわかる。

真空管はチェコ・JJ社にオーダーしたもの

台座は大理石の切り出しで、正面に電源ボタン(左)を装備

ヘッドホンの収納部

背面端子

1991年に発売された前モデル「Orpheus」

HE-1の再生周波数帯域は8Hz~100kHz。「コウモリと象の可聴帯域をあわせたくらい」とのこと

ゼンハイザーという会社についても説明があったので、ここで簡単にまとめておく。本社所在地はドイツのハノーバーで、1945年にLabor Wという社名で創設された。1946年にはマイク「DM-1」をリリース。その後も世界初の開放型ヘッドホン「HD414」(1968年)、や「Orpheus」(1991年)を投入するなど、オーディオ史に幾度もインパクトを残してきた。現在はコンシューマー向けヘッドホン、プロ向けマイク、ビジネスコミュニケーション製品(会議用マイク)の3本柱で事業を行っており、グローバルでの売り上げは1,100億円以上(2014年)、社員は2,600人、子会社の数は18を数えるという。

ドイツ・ハノーバーにある本社の全容。ハイエンド製品の製造拠点でもある

工場は全3カ所。アメリカではマイクなどを、アイルランドではヘッドホンの一部とビジネス向けマイクを扱っている

今後は、全国7都市で「ゼンハイザーエキシビジョン」というファンミーティングの拡大版を開催していくことも発表された。イベントでは、イヤホン・ヘッドホンだけでなくマイクやスピーカー、ビジネス向け製品も試聴できるという。アパレルブランド「nano・universe」など異業種とのコラボレーションも展開予定で、良い音をより多くの人々に届けたいという思いが伝わってくる。

俳優の高橋克典さんが登場し、トークセッションを行った

終盤には、スペシャルゲストとして、俳優の高橋克典さんが登場。ディープなオーディオファンであり(専用の電柱を立て、生活用電源とオーディオ用電源を分けていると話していた)、ゼンハイザーファンでもある同氏は、「真空管がせり出てくるところは少年心をくすぐる。本当にすばらしい音ですが、エイジングしていけばさらに気持ちのよい音を聞けるんでしょうね……」とHE-1の魅力を熱く語っていた。

発表会ではHE-1のイメージ動画も上映された。世界の始まりを思わせるような内容で、正直ヘッドホンのイメージ動画としてはあまりに壮大だったのだが、音を聴いたあとは「うん、納得! 」となってしまったので恐ろしい