このあたりの話は、Appleが拙速なカメラの性能アップを行っていない背景でもある。解像度やセンサーサイズなどの変更を最小限に抑えながらも、ワンタッチでより良い写真が得られる機能を拡充することに情熱を傾けている。

誰でも簡単に高品質の写真が撮れるのがiPhoneの特徴でもある

iPhone 6sでこそ高画素化したが、iPhone 5sでのセンサーサイズの拡大による解像感や色再現の向上、より明るいレンズの採用、Focus Pixelsによるフォーカス速度の向上など、わかりやすい画素数ではないのスペック向上に取り組んでいる。おそらく、割と深くカメラの技術について触れている人でなければ、その仕組みや効能を理解することは難しい領域だ。

こうした背景にあるのが、なるべくiPhoneのカメラのスペックや「写り方」を大きく変えないことで、iPhoneのカメラを使うという新体制や、アプリからの利用に不都合が出ないようにする「プラットフォーム」的な考え方が根底にあるからではないか、と思う。

とはいえ、いつまでもその枠にとらわれている場合でもない。

例えば、手元にあるSamsung GALAXY S6には、1,600万画素のカメラが搭載されているが、カメラアプリに料理やスポーツなどの撮影モードを追加できる仕組みや、被写体の周囲をぐるりと撮影して記録するバーチャルショット、撮影後にフォーカスを変えられる選択フォーカスなどを取り入れている。

そして2016年は、VRがホットトピックとなっており、撮影、視聴の環境の整備が進んでいくものと考えている。複数のカメラでの記録と合成や、スマートフォンを動かしながら撮影する形でのVRコンテンツ作成など、よりプラットホームとしてのカメラの進化が求められることになるはずだ。

Appleはこうした新しいカメラのトレンドを、引き続き引っ張り続けることができるだろうか。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura