さて、満を持して国宝化された松江城だが、それを機に観光産業を活性化させたいというのが松江市の本音だろう。

登閣者が約1.3倍に増える

実際に松江城を訪れてみると、平日にもかかわらずなかなかの賑わいをみせていた。事実、松江城の管理関係者によると「国宝化前に比べ、約1.3倍の登閣者数」があるという。昨年は、27万人以上が松江城を訪れているが、それを考えると今年は35万人を超すのではないだろうか。

「堀川めぐり」の和船。松江市は“水の都”といえるほど、掘や水路が張り巡っている

国宝化を機に松江城を訪れる歴史ファンが増えたのはもちろんだが、インバウンド観光客の存在が大きい。来城者を目視したり、会話に耳を傾けたりしてみると、2~3割が外国人だと見受けられた。

城郭の外を散策しても、外国人とすれ違う機会は多く、中には掘り割りの水面を走る和船を興奮気味に撮影している集団もみられた。確認はしていないが、和船に乗って「堀川めぐり」を楽しむインバウンド観光客も相当にいることだろう。

日本を訪れるインバウンドは過去最高となっており、2,000万人に迫る勢いをみせている。当然、中国地方の日本海側にもインバウンドは押し寄せていると考えられる。というのも、松江城に限らず、出雲大社、宍道湖、中海、鳥取砂丘など広域でみると観光資源が豊富で、容易にバスツアーを組みやすいからだ。ただ、このツアーというのが“イタシカユシ”の面もある。

宍道湖の夕景。松江城に並ぶ市の宝だ

松江市のある飲食店スタッフによると「昼間は多くの外国人が歩いていますが、夜間はほぼみられなくなります」という。松江城観光を終えると、次のスポットへバスで移動してしまうのか、それとも宿泊施設にこもるのか。夜間にオープンする飲食店にはあまり経済的な影響はないようだ。

とはいえ、インバウンド観光の推進は松江市にとっても重要な取り組み。平成27年度は市への観光入込客数1,000万人、うちインバウンドの入込客数10万人を目指すとしている。そのため、山陽方面等との観光周遊ルートづくりや、中海・宍道湖・大山圏域の連携による境港(鳥取県・境港市)へのクルーズ客船誘致などに取り組む考えだ。いずれにせよ、松江城はそうした取り組みの象徴的なシンボルといえる。

次回はインバウンド観光客に沸く国内屈指のランドマークについて触れたい。

過去最高のインバウンド来日数にわく日本文化

●インバウンド観光客を「虜」にする日本の“文化財ランドマーク”【前編】
●インバウンド観光客を「虜」にする日本の“文化財ランドマーク”【後編】
●インバウンド観光客を魅了できるか!? 日本独自の食文化「駅弁」復活への課題【前編】
●インバウンド観光客を魅了できるか!? 日本独自の食文化「駅弁」復活への課題【後編】