宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は12月11日、X線天文衛星「ASTRO-H」を搭載したH-IIAロケット30号機を、2016年2月12日に打ち上げると発表した。

打ち上げ場所は種子島宇宙センターで、打ち上げ予定時間帯は17時45分から18時30分に設定されている。また、2月12日に打ち上げができなかった場合に備え、打ち上げ予備期間として2月13日から2月29日までが確保されている。

三菱重工をはじめ、各社が製造したロケット部品は、すでに種子島宇宙センターに搬入されている。これから組み立てや衛星の搭載、試験など、打ち上げまでの準備作業が続く。

ASTRO-HはJAXAを中心に、国内外の研究機関や大学が共同開発した衛星で、X線という人間の目では見えない光を見て、宇宙を観測することを目的としている。たとえば超新星爆発やブラックホール、活動銀河核、銀河間の高温のプラズマといった現象は、激しく活動していることから数百万度から数億度という高い温度になっているが、こうした超高温の領域からはX線が出ている。ASTRO-Hを使ってそのX線を観測することで、これらまだ謎の多い現象について詳しく知ることができると期待されている。

ASTRO-Hの全長は14m(打ち上げ後)、打ち上げ時の質量は2.7トンと、これまでJAXAが打ち上げた科学衛星の中で最も大きく、その内部には大型で高性能なX線望遠鏡が搭載されている。また機体が大きくなったことで、従来のJAXAの科学衛星と比べ、予備の部品など冗長系も十分に確保され、故障に強い衛星になっている。

なお、打ち上げが成功すれば、ASTRO-Hには愛称が与えられることになっている。

ASTRO-Hの詳細についてはこちらのレポートを参照

H-IIA史上最短の飛行時間、小型副衛星の放出や新技術の実証試験も

H-IIAロケット30号機は打ち上げ後、太平洋上を南東の方角に飛び、離昇から14分14秒後にASTRO-Hを高度約575km、軌道傾斜角31度の円軌道に投入する。

ロケットの飛行経路は先日打ち上げられた29号機に近いが、打ち上げから衛星分離まで4時間半もかかった29号機と比べ、今回は14分14秒ととても短い。これは最終的に衛星を投入する軌道が異なるためである。今月1日に実施された30号機コア機体の報道公開において、三菱重工の二村幸基(にむらこうき)氏は「29号機はH-IIAにとって最長の飛行時間だったが、今回の30号機は最短の飛行時間となっており、対照的」と語っている。

また、今回はロケットの性能に余力があるため、名古屋大学の「ChubuSat-2」(質量約50kg)、三菱重工の「ChubuSat-3」(質量約52kg)、九州工業大学の「鳳龍四号」(質量約10kg)、そして米国の商業超小型衛星8機(合計で質量約65kg)の、合計11機の小型衛星も搭載される。これらはASTRO-Hがロケットから分離された後に、順に分離されることになっている。

さらに、打ち上げから1時間49分30秒後には、JAXAと川崎重工が新たに開発した「低衝撃型分離部」の試験も行われる。この装置はロケットを衛星から分離するためのもので、従来は爆薬を使っていたことから分離時に衛星には大きな衝撃がかかっていた。しかしこの低衝撃型分離部は機械的に分離する仕組みを使っているため、衝撃が小さくできる。

今回の試験では、実際の衛星ではなく、衛星を模した「ダミー衛星フレーム」を分離し、実際にこの装置で分離ができるのか、またその際の衝撃は設計どおり小さなものなのか、といったデータが取られることになっている。今回の試験の成果などを踏まえ、いずれ実際の衛星の分離で使われることが計画されている。

H-IIA30号機のコア機体の詳細についてはこちらのレポートを参照

H-IIAロケット30号機の第1段、第2段機体と段間部 (2015年12月1日、三菱重工飛島工場にて)

ASTRO-Hの想像図 (C) JAXA/池下章裕

JAXA筑波宇宙センターで公開されたASTRO-Hの実機 (2015年11月27日撮影)

ASTRO-Hと一緒に打ち上げられる11機の小型衛星の概要 (C) 三菱重工

参考

・JAXA | H-IIAロケット30号機によるX線天文衛星(ASTRO-H)の打上げについて
http://www.jaxa.jp/press/2015/12/20151211_h2af30_j.html
・平成27年度 ロケット打上げ計画書 X線天文衛星(ASTRO-H)/小型副衛星/H-IIAロケット30号機(H-IIA・F30)PDF
http://www.jaxa.jp/press/2015/12/files/20151211_h2af30.pdf