【レポート】

X線天文衛星「ASTRO-H」がプレス公開 - 絶対温度0.05度を実現する冷却装置に大注目

大塚実  [2015/12/02]

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月27日、2015年度中の打ち上げを目指しているX線天文衛星「ASTRO-H」をプレス向けに公開した。今年科学観測を終了した「すざく」(ASTRO-EII)の後継機で、重量は1.7トンから2.7へと大型化。観測性能も強化されており、すざくに比べ、10~100倍も暗い天体の分光観測が可能になった。H-IIAロケットにて、種子島宇宙センターより打ち上げられる予定。

公開されたX線天文衛星「ASTRO-H」。打ち上げ時の高さは約8m

JAXAの高橋忠幸・ASTRO-Hプロジェクトマネージャ

日本はこれまで、「はくちょう」(CORSA-b)、「てんま」(ASTRO-B)、「ぎんが」(ASTRO-C)、「あすか」(ASTRO-D)、「すざく」といった5機のX線天文衛星を開発しており、ASTRO-Hで6機目。X線天文学は比較的新しい学問であるが、日本は黎明期から取り組んで多くの成果を上げており、JAXAの高橋忠幸・ASTRO-Hプロジェクトマネージャは「X線天文学は日本のお家芸」と言い切る。

ASTRO-Hの概要。4種類6台の観測装置と、4本の望遠鏡を搭載する

各観測装置の概要。硬X線の領域では初めて集光撮像を実施する

電磁波の中で、人間の目で見ることができる領域が可視光であるが、全体からすればそれはほんの一部。宇宙は我々には"見えない光"で溢れている。そのために、電波や赤外線を使った観測も行われているのだが、X線は主に、数百万度から数億度という、超高温の物質から出ている波長。つまりX線観測を使えば、宇宙の中で激しく活動中の領域の様子を調べることができるというわけだ。

宇宙からは様々な波長の電磁波が届いているが、地表まで到達できるのは一部。X線は宇宙で観測するしかない

これはケンタウルス銀河団の観測画像。可視光(左)とX線(右)では、全く異なる世界が見えてくる

そういった活動領域の代表格はブラックホールだ。最新の研究では、銀河は誕生したときから中心にブラックホールがあり、ともに進化してきたらしいということが分かりつつある。しかし、その進化のメカニズムはまだ分かっていないことも多く、従来のX線天文衛星より広い波長域を高感度で観測できるASTRO-Hを使って、謎を解明することが期待されている。

ASTRO-Hの特徴は、分光能力の高さと観測できるエネルギー帯域の広さ。広い波長域を高感度で観測することが可能だ

ASTRO-Hによる観測をシミュレート(青)。既存の衛星(黒)では山にしか見えなかった部分が、より細かく分かるように

ASTRO-Hには4種類6台の観測装置が搭載されるが、その目玉と言えるのは「軟X線分光検出器」(SXS)だ。これは日米が共同開発した装置で、「マイクロカロリメーター」と呼ばれるセンサーを使い、受光したX線光子のエネルギーを超精密に計測する。エネルギーが分かれば波長が分かるので、ドップラー効果を利用して、対象天体の動きまで見ることができるようになる。

これが「軟X線分光検出器」(SXS)。外部から丸見えになっているのは、放射で熱を逃がすためだ

装置の上側には、X線を通すための穴が開けられている。ASTRO-Hは、それ自身が巨大な望遠鏡なのだ

SXSのキー技術となるのは冷却機構。マイクロカロリメーターでは、X線光子が素子に当たったときにごく僅かに温度が上がることを利用しているので、素子を極低温に維持する必要がある。そのため冷媒として液体ヘリウムを搭載するのだが、同様の観測装置を搭載したすざくでは、打ち上げから1カ月でこの液体ヘリウムを全量喪失するという不具合が起きてしまい、観測できなかったという経緯がある。

SXSの原理。X線光子1つを検出する高い感度を実現するためには、絶対零度近い冷却が必要となる

素子は6×6ピクセルの構造になっており、かなり荒いものの、画像として認識することが可能

絶対温度0.06度(0.06K)を実現するために、すざくの「X線微少熱量計」(XRS)では、多段の冷却システムを搭載していた。まず機械式の冷凍機で100Kまで下げ、さらに固体ネオンで17K、液体ヘリウムで1.3Kまで冷却。その温度からの仕上げには、断熱消磁冷凍機(ADR)と呼ばれる装置が使われている。液体ヘリウムは30リットル(4kg)搭載。気化熱による冷却のため蒸発して徐々に減少するが、2年以上は持つはずだった。

外部からの熱の流入を抑えるため、XRSは真空断熱容器に格納。そこにヘリウム排気弁と真空容器排気弁が付いている構造だった。不具合の原因となったのは、このヘリウム排気弁が衛星の構体内部に設置されていたこと。排気されたヘリウムが真空断熱容器に入り込み、断熱性能が劣化。すると熱流入が増え、ヘリウム蒸発量も増えた結果、さらに断熱性能が劣化するというループに陥ってしまった。

すざくの不具合の原因となった構造(2006年に宇宙開発委員会に提出された資料より)

わずかな量のヘリウムが真空断熱容器に入っただけでも致命的だという知見が無かったために起きた不具合だった。そこでASTRO-HのSXSでは、この対策として、ヘリウム排気弁と真空容器排気弁をともに構体外部に設置。またネオンタンクより外側を担当した日本と、その内側を担当した米国の間のコミュニケーション不足も要因とされたため、今回は全ての設計会議に米国側も参加したそうだ。

構体の外側に設置されたヘリウム排気弁。奥側も同じようになっている。真空容器排気弁は反対側の面にあるとか

SXSの熱は、大きなラジエータ(銀蒸着テフロン)から放熱。表面にヒートパイプが貼られているのはちょっと珍しい

なおSXSでは、仕組みもXRSから変更されており、ネオンは使わない。機械式の2段スターリング冷凍機(2ST)で20~30Kまで下げ、次にジュールトムソン冷凍機(JT)で4~5Kに冷却。液体ヘリウムで1.2K以下にして、ADRで最終的に0.05Kにまで下げる。すざくで実現した0.06Kは、宇宙空間で人工的に作り出された温度としては世界で最も低いものであったが、ASTRO-Hが計画通り0.05Kを達成すれば、記録の更新となる。

そのほか搭載する観測装置は、軟X線撮像検出器(SXI)、硬X線撮像検出器(HXI)、軟ガンマ線検出器(SGD)。衛星の打ち上げ時の高さは8mほどだが、HXIのために用意された硬X線望遠鏡(HXT)の焦点距離は12mもあるため、軌道上で伸展式のブームを展開。その先端にHXI×2台を置き、長い焦点距離を確保する。このとき、衛星の全長は約14mにもなる。

ASTRO-Hの模型。軌道上ではこのようにブームを伸ばし、硬X線の12mという焦点距離を稼ぐ

模型を上から見たところ。上下の2本は軟X線望遠鏡(SXT)で、左右の2本が硬X線望遠鏡(HXT)

打ち上げ日はまだ公表されていないが、近日中に種子島へ輸送されるという。打ち上げ後、1カ月~1カ月半の初期運用、7カ月半の試験観測を経て、定常運用を開始する予定だ。高橋プロマネは「ブラックホールから銀河まで、宇宙がどうして現在の姿になったのかというところに興味がある」と述べ、ASTRO-Hによる観測開始に期待を寄せた。

ファンがあったので驚いたのだが、もちろんこれは地上での冷却用。空気がない宇宙空間では意味がない

良く見ると、先端と本体で多層断熱材(MLI)の色が違う。担当メーカーが違ったりすると良くあること

奥側の4本が望遠鏡。手前の小さな2本は姿勢制御に使用するスタートラッカ。いずれも蓋がしてある

太陽電池パネルは片翼3枚×2翼の計6枚。向きは変えられないが、太陽の方角が±30度までなら問題無い

右はSバンドのアンテナで、左はXバンドのアンテナ

姿勢制御スラスタ(RCS)。4カ所×2基の計8基が搭載されている

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