既報の通り、キングジムは、Windows 10を搭載した8型モバイルPC「ポータブック XMC10」を開発。キングジムとしては初の「PC」製品となり、2016年2月12日から発売する。価格はオープン、店頭予想価格は90,000円前後(税別)の見込みだ。キングジムは、11月30日から「なにを出すんだ! キングジム」と題した動画を公開。12月8日の発表を告知していた。

モバイルPC「ポータブック XMC10」と、キングジム 代表取締役社長 宮本彰氏(写真右)

ポータブックは、使いやすさと携帯性を両立。外出や出張が多いビジネスマンの利用を想定している。「出先でプレゼンテーションや資料作成を行う用途に絞って検討して開発した。スペック至上主義の製品ではない。ビジネスの未来を変えるような製品ではないが、明日の出張を変えられる製品」(キングジム 開発本部 亀田登信本部長)とした。

新発想の「スライドアーク キーボード」を採用することで、操作時にはフルキーボードでの入力を可能にする一方、持ち運び時にはキーボードを折りたたんで収納。本体のフットプリントはW204×D153mmと、A5サイズの手帳とほぼ同じサイズとなる(高さは34mm)。重量は約830gだ。

左から、キングジム 代表取締役社長 宮本彰氏、開発本部 亀田登信本部長、開発本部商品開発部 冨田正浩プロジェクトリーダー

「ビジネスマンが最も多く持っているノートはA5サイズ。片手で持ち運べる重さにするとともに、一般的なノートPCが持つ機能を搭載した」(キングジム 開発本部商品開発部 冨田正浩プロジェクトリーダー)という。本体表面をレザーのような手触りに仕上げており、手になじみやすく、この点でも手帳を意識したものになっている。

折りたたむとA5サイズの手帳とほぼ同じ

キーボード収納の際には、キーボードが左右に分かれ、弧を描くようにしてスライド。左右2つの部分としてたたむ。キーボードの周囲は1.2mm厚のアルミフレームで補強し、剛性と入力時の安定性を高めた。キーピッチは18mm、キーストロークは1.5mmを実現しており、タイピング時の静音性にもこだわっている。

スライドアーク キーボードの動き
※音声が流れますのでご注意ください。

「キーボードの開発に1年をかけた。何度も試作を繰り返した結果、機構を裏側に入れることに決定。異物が落ちるような穴をなくしたり、耐久性においても改善した。2万回の開閉を保証しているが、これは一日10回開閉しても、5年半持つことになる」(富田氏)という。

キートップにはカーブ形状とともに、カナ表記をなくした「すっきりキーボード」を採用。中央部にはポインティングデバイスを搭載している。背面部に配置されたポート類のカバーを開けると、それによって本体に角度をつけることができ、タイピングしやすくなる。

カナ表記を省いた日本語キーボード。キーピッチは18mm、ストロークは1.5mm

キーボードの周囲はアルミフレームで補強。背面のインタフェースカバーを開けると、簡易的なスタンドとして機能する

CPUは、マイクロソフトのSurface 3などと同じ、Intel Atom x7-Z8700(4コア、1.6GHz)だ。メインメモリは2GB、ストレージのeMMCは32GB(メモリとストレージの増設や交換は不可)。Word Mobile、Excel Mobile、PowerPoint Mobile、OneNoteで構成されるOffice Mobileを標準搭載する。さらに、1TBのオンラインストレージサービスや、毎月60分間のSkype通話プランを1年間利用できるOffice 365サービスも付属だ。

「外出先でPCを使うときは、メールのチェックや資料の修正など、簡単な仕事が多く、CPUパワーはAtomで十分と考えた。Atomのおかげで低消費電力と低発熱を実現できた。本体はファンレスなので動作音もなく、膝の上においても底面が熱くならない」(富田氏)。

液晶ディスプレイは8型で、解像度は1,280×768ドット。「液晶サイズが小さいものを選ぶと、キーボードのサイズか小さくなって打ちにくくなるが、ポータブックは8型の液晶サイズながらも、12型ノートPCサイズのキーボードが利用できる」(富田氏)。

インタフェースとしては、HDMI端子やVGA(D-Sub)端子の映像出力、USB 2.0ポートやSDメモリーカードスロット、200万画素のWebカメラなどを装備。「フルサイズのキーボードとともに、フルサイズの端子類を搭載することにこだわった」という。通信機能は、Bluetooth 4.0+EDR、IEEE802.11b/g/n準拠の無線LAN(Wi-Fi)に対応している。IEEE802.11acなど5GHz帯に対応しなかったのは、コストの観点から判断した。

バッテリー駆動時間は5時間だが、5V2Aのタブレット用モバイルバッテリーからの充電も可能にしたことで、持ち運びの際にも充電できる環境を整えた。「5時間の駆動時間は短いという声もあったが、モバイルバッテリーを活用することでカバーできると考えた。本体のインタフェースをUSB 3.0にしなかったのも、モバイルバッテリーからの充電に対応し、ACアダプターを小型化するという狙いがあったため」という(USB 3.0は、パスパワー電源の出力が900mAなど、USB 2.0よりも大きな電力要件を満たす必要がある)。付属のACアダプターは小型USBアダプター方式を採用し、持ち運びに配慮した。

背面にある端子類

キングジム 開発本部商品開発部の冨田正浩プロジェクトリーダーは、「毎月のように海外出張をしていたとき、飛行機のなかでノートPCを開くとテーブルが狭く使いにくいこと、さらにVGAポートがないためにプロジェクターと接続できないという問題に直面した。ハイスペックのノートPCを持っていても、プレゼンテーションひとつ満足にできない状況だった。また、注目を集めている2in1パソコンも膝の上で使いにくい。そうした経験をもとに、出張や外出に最適なPCはなにかを考えて開発した製品が、今回のポータブック。ポータブルとノートブックを組み合わせた名称とした」と語る。

開発はキングジムだが、設計および製造は、台湾ペガトロンが行っている。本体カラーは黒のみで、文具店や家電量販店、ネット通販などを通じて販売する。実際は「PC売り場に置かれることが多いだろう」とのことだ。販売台数は、初年度で3万台を見込む。

キーボードの最初の試作品ではメカのスライド部分に大きな穴が開いており、異物が落ちるといった課題があった

第2世代では穴はなくなったが、外に機構が見え、耐久性では課題が残っていた

最終的な形状に近くなった仕組みでは、機構部分を裏側に入れることで表からはキーボードだけが見えるようになった

キングジムの宮本彰社長は、次のように述べる

「これまでにキングジムが商品化してきたものに比べても、開発コストと技術的な難易度が高く、ポータブックを商品化する決断にも、かなりの勇気が必要だった。1988年にテプラを投入し、初めて電子機器市場に参入したが、それ以来のチャレンジだといえる。

ノートPC市場は、世界を代表する企業がしのぎを削る競争が激しい市場だが、キングジムがこれまで培ったモノづくりのこだわりを製品開発に注いだ。当初は社内でも反対意見があった。しかし、他社と同じ製品は出さずに差別化した製品を出す、そして電子機器では隙間を狙っていくというキングジムの基本姿勢に照らし合わせた結果、これは十分に差別化でき、世の中にない新たな市場を作っていけると確信できたことから、思い切ってやっていこうと考えた。

開発に着手してから2年を経過し、ようやく自信を持って紹介できる製品が完成した。ポータブックを出すことで、電子機器メーカーとして認められるようになるだろう。PCメーカーとは呼ばれたくないが、ポータブックのキングジムと呼ばれることを目指したい。いまは、隙間とはいえないような大きな市場があるのではないか、という期待が高まっている」

ビジネスの未来は変えられないが、明日の出張は変えられる

また、キングジム 開発本部の亀田登信本部長は、PCへの参入について語った。

「キングジムは、ビジネスパーソンの仕事をサポートする製品を提供してきた。ITツールが欠かせないものになるなか、スマホやタブレットなどの新製品、新サービス分野などは技術革新が速く、開発競争も激しい。キングジムの体力では参入が難しい。

一方、PCはビジネスツールとしては中心的製品であるもの、コモディティ化しており、目新しい製品の登場が少ない。PC市場の成熟化によって、各社の製品に特徴の差が少なくなってきたこのタイミングであれば、ターゲットや使用シーンを絞り込んで商品を作りこむアプローチで、後発の我々でも市場参入の可能性があると考えた。

この考え方は2008年に発売して、ヒット商品となった『ポメラ』以降に行っている開発手法。ポータブックのほかにも、今後も、様々な分野に独創的な製品を投入していく」