米Appleが2018年にも同社iPhoneに有機ELディスプレイ(OLED)技術を採用すべく、複数の部品メーカーらに通達を出したというニュースが話題になっている。実際にiPhoneは既存の液晶ディスプレイ(LCD)からOLEDへと置き換えられていくのだろうか。

同件は日本経済新聞が報じている。また、同じ内容で英語版にあたるNikkei Asian Reviewで全文が公開されているので興味ある方は確認してほしい。

それによれば、Appleは2018年にも登場するiPhoneにOLEDを採用する計画で、同技術への適合や増産に向けた投資を打診しているという。実際、すでにサプライヤの1社であるLG DisplayがOLED増産に向けた設備投資を表明している。

ただし、スマートフォン等で利用される中小型のOLEDパネルは、AMOLED方式を採用するSamsungが圧倒的シェアを獲得しており、同社Galaxyシリーズに全面採用している。一方でLG DisplayのOLED増産はTV向けの大型パネルも含んでいるが、iPhoneを含む世界のスマートフォンでの採用を見込んだ中小型パネルの外販を目指しているとも考えられ、OLED開発競争が加速する可能性がある。

現行iPhone向けのLCDパネルサプライヤとしては、上記2社のほか、日本のシャープとジャパンディスプレイ(JDI)の2社がいる。日経新聞の同報道を受け、日本時間で11月26日は売上損失懸念から両社ともに株価が急落している

JDIは、産業革新機構(INCJ)、ソニー、パナソニックの3社とともにJOLED(ジェイオーレッド)というジョイントベンチャーを設立し、2017年以降をめどにOLED製品の開発と量産を発表しているが、現時点ではモニター向けの中型パネルやサイネージなど、すでにスマートフォン向けで大きなシェアを握るSamsungらとは直接競合しにくい領域を選択している。もし今回の報道が事実であり、Apple側の要請を受けてiPhone向けの量産計画を立てるのであれば、その動向が注目される。

このiPhoneでのOLED採用については、興味深いレポートをKGI SecuritiesのアナリストMing-Chi Kuo氏が、つい2週間ほど前に発表している。Mac Rumorsによれば、同氏はiPhoneでLCD向けバックライトを提供しているミネベアをはじめとするサプライチェーンらの情報を総合し、少なくとも今後3年間はAppleがiPhoneでOLEDを採用することはないと結論付けている。また、iPhone組み立ての主力企業であるFoxconnことHon Hai Precision IndustryがTFT LCDの製造ラインの大規模投資を行っており、この大量生産が2018年にスタートする見込みであることから、3年という期間を超えてもなお、既存のLCD技術をiPhoneで採用し続ける可能性があるとも分析している。2018年という部分が偶然にも一致した2つのレポートだが、その後の展開を巡っては両者の意見は完全に異なっていることになる。

実際、2018年というのは年1回新製品がリリースされるiPhoneにおいて3世代先の話であり、どのディスプレイ技術が採用されるかは完全に未知数の世界だ。ただ、Appleの会計年度で2015年度時点ですでにiPhoneの世界販売台数は2億台を突破しており、もし今後も順調に7~10%程度の年率成長を果たしていくのであれば、2018年には2.45~2.66億台の年間販売台数に達する。

仮に横ばいで推移したとしても、2億枚のパネル需要をOLEDで満たさねばならず、サプライヤの限られるOLED 1本にディスプレイ技術を絞るのは3年先の話とはいえAppleにとって大きなリスクになると筆者は考える。

Appleは「Apple Watch」でOLED技術を採用しているが、未公表ながら必要パネル枚数は数百程度とiPhoneのボリュームに比べても著しく低く、その意味でのリスクはなかった。そのため、仮にOLEDを採用するのであっても、iPhoneのラインナップに応じて同じ世代でディスプレイ技術を使い分ける可能性もあるのではないかと予想する。