ここまでの2人の話を聞いていると、PRO TREKの進化の歴史は、登山家である竹内氏と技術者である牛山氏の「最高峰のアウトドアウオッチを作ろう」という、"本気のせめぎあい"によって生み出されてきたものであることがよくわかる。では、その進化の最先端、新モデルのPRX-8000Tはいかなるコンセプトに基づいて開発されたのか。牛山氏は次のように語る。

牛山氏「これまでのMANASLUシリーズは、PRO TREKの最上級ラインとして、高級感にこだわりを持って開発をしてきました。しかし今年、MANASLUシリーズの開発コンセプトを改めて、『8000m峰を登頂するためのギア』と再定義しました」

写真左は「PRX-8000T」のデザインラフ、写真右はPRX-8000T

8000m峰を登頂するための腕時計として、こだわったのが「視認性」「堅牢性」「装着性」という3つの性能。特に視認性の向上には力を注いだ。

PRW-6014Hと同様に、文字板やロゴなどを黒くして、針とインデックスを白くすることで、高いコントラストを実現。加えて、フェイスの直径をPRW-6014Hよりも10%ワイド化し、軽量なカーボンファイバーを使用して針を大型化するなどして、視認性をさらに高めている。

ぱっと見たときの時刻の読み違えを防止すべく、12時位置のインデックスは従来モデルよりも大型化。さらに針とインデックスには二重蓄光処理を施し、夜間行動時でも見やすくなっている。

いい意味でPRO TREKらしからぬ見た目であり、竹内氏も「カッコいいし、ぜひ使ってみたいと思える完成されたデザインですね」と絶賛する。

「ヒマラヤや8000m峰に興味や憧れを持つ人に、ぜひこの時計を使ってほしい」と語る竹内氏

竹内氏「PRO TREKである以上、センサーなど性能への信頼感は間違いなくあるわけです。あとは腕時計にとってもっとも重要な『時間』をいかにわかりやすく伝えるか、その表現力がポイントでした。このPRX-8000Tは、これまでのPRO TREKとは異なるまったく新しい個性を持ちながら、PRO TREKが培ってきた経験をすべて受け継ぐような理想的なモデルになったと思います」

先述したように、PRX-8000Tは「8000m峰を登頂するためのギア」として開発された。とはいえ、誰しもが竹内氏のように8000m峰の頂を目指すわけではない。むしろそんな高みを目指すのは、ごく少数の限られた人間のみである。ならば、大部分の人にとって、PRX-8000Tはオーバースペックの分不相応な腕時計であり、必要のないものなのだろうか……答えは「否」である。

竹内氏「飛行機を操縦しない人もパイロットウオッチをしますよね。なぜかと言えば、飛行機や空を飛ぶことに興味や憧れがあるからです。時計としてのかっこよさもあるでしょう。

同じように、このPRX-8000Tも、8000m峰に登る人だけのための腕時計ではありません。8000m峰の世界やヒマラヤという山域に興味がある人、一度はその地に足を踏み入れて自分の目で見てみたいと憧れている人にも、ぜひ身につけてもらいたいですね」

竹内氏と牛山氏。今回のイベントでは歴代のモデルの開発の裏側を赤裸々に語ってくれた。そのやりとりからもお二人の信頼関係が伝わってきた