Synergy S1/S3/S5/S7

さて、このあたりからラインアップの話をしたい。このスライド(Photo10)は、2015年6月のもののちょっとだけのアップデートであるが、パッケージ別にこれを並べたのがこちら(Photo11)。

Photo10:S1のみがCortex-M0+で、あとはすべてCortex-M4

Photo11:実際は100~176pinあたりがメインストリームで、一番品種が多いのが100pinと144/145pinとなる模様

流石に36/48pinといった省パッケージはS1のみだが、あとは複数の製品がピン互換となる。面白いのはこのピン配置が互換性を保つ、という話である。基調講演でも出た話題だが、これは要するにこういうことである(Photo12)。もちろん出ている信号線の数が根本的に違う&ピンの数も違うから完全に同じにはできないものの、なるべく下位互換性を保つようにピンの配置を行うので、パッケージのアップグレードがあっても設計の変更を最小限に抑えられるという話である。また同様にレジスタについても、S1~S7で同じレジスタのアドレスを同じに保つ事で、これもコード互換性を最大限に保つようになっている(Photo13)。

Photo12:Photo11では36pinからスタートしていたが、計画ではMinimumは16pinのものがある模様。といってもこれはあくまで計画レベルの話で、具体的にはまだ製品化の予定は無い模様

Photo13:ここで言っている話はCPUコアのレジスタではなく、あくまでペリフェラルのレジスタの話である

Photo14~17はS1~S7の具体的な特徴をまとめたものだが、S1/S3はそれぞれ特定用途向けに絞り込んだ構成で、いわゆるCortex-MベースのMCUとしては比較的普通(といってもやや機能的にはリッチ)なものだが、S5/S7はかなり重厚な構成である。SRAMが640KBというのは、Cortex-Mベースとしてはかなりハイエンドな部類で、これはやはりThreadXをフルに使うことを前提としたものだろう。あるいはCode Flashが2/4MBというのも、自動車向けMCUを別にするとこれまた破格に大きい。このあたりは、Synergy Platformをフルに使うためにはこの程度リッチでないといけない、という事かもしれない。

Photo14:指マークがあるのが、下位モデルとの大きな違い。S7は本当に「全部入り」である

Photo15:S5は動作周波数が下がるほか、Ethernet MACが1つとかADCが21ch(S7は25ch)などの違いはあるが、周辺回路そのものは大体一緒

Photo16:S3はData Flashも16KB、SRAMも192KBに削減され、2D Drawing EngineとかConenctivityなどが大分省かれた構成。ただADCは14bit/28chに強化されたり、PWMは32bitながら10個になったり、などターゲットがS5/S7と異なっている事が判る

Photo17:S1は本当に最小限の構成で、DMAすらも省かれている。逆に言えばDMAを使うような用途はS3以上を選べということであろう

次に開発環境の話を。Renesas Synergyは開発環境として、これまで同社が提供してきた「e2studio」がRenasas Synergy対応を追加した上で提供されることになる(Photo18)が、これにプラグインの形でさまざまなツールが追加される(Photo19)。特徴的なのは、コンパイラとしてはGNUの他にIAR Systemsのものが提供されるが、一方Debug ProbeはSeggerのJ-Linkが採用されたことだ。このあたりは後ほどインタビューのなかでもう少し説明したい。

Photo18:e2studioそのものはeclipseベースのIDEである

Photo19:プラグインは、Preparation/Build/Debugのそれぞれのフェーズ向けに、より開発を容易にするためのアシスト機能的なものが提供されるという意味である

開発環境と対になるのが開発キットである。これに関してはルネサス以外にも複数のベンダから提供されるが、とりあえずルネサスからはDevelopment KitとStarter Kit、Promotion Kitの3種類が用意される(Photo20)。このうちStarter Kit(Photo21)に関しては、展示会場でも随分多く利用されていた。普通に開発をするには、とりあえずこれがあれば良いという感じだ。

Photo20:現時点ではまだS1が出荷されていないこともあってか、Promotion KitはルネサスのWebサイトでも存在しない

Photo21:ちゃんとArduino互換のピンも用意されているあたりは良く判っている、という感じがする

ではサードパーティ品は? というと、展示会場で配っていたのがDiskboards.orgのStarter Kit(Photo22~24)。正式なローンチはWebサイトによれば11月25日になる予定だが、これだけでとりあえず開発が可能なものが存在する。Avnetのロゴがあることからも、配布はAvnet経由などになりそうだが、現時点では同社のラインアップには含まれていない。また配布価格もDevConの時点では未定との事だった。

Photo22:奥の缶にこのボードとUSBケーブルが同梱されている。配布そのものはDiscboardsの設計元と思われるembedded product designという組織であるが、こちらも詳細は不明である

Photo23:搭載されているのは未発表のSynergy S5と思われる。現在発表されている製品型番は、Synergy S7がR7FS7G27xxxxxxxx、Synergy S3がR7FS3A77C3A01xxxとなっており、R7F5Aというのは多分S5になると考えられるからだ

Photo24:内側のコネクタはmikroBUS準拠の模様。外側は素直にSynergyの配線をそのまま引き出しているのではないかと思われるが詳細不明

ルネサス自身としての製品の位置づけはこんな感じ(Photo25)である。S7とS5の製品構成が似通っていることもあってか、S5が"To be planned"になっているのがちょっと面白い。一応業界別に具体的な用途を示したのがこちら(Photo26~28)である。

Photo25:S5は後追いで投入される事も関係しているのだろうが、基本S7とS5は大きくターゲットは変わらないと思われる

Photo26:ビル管理用途向け。S5とS7の差別化がちょっと難しい感じ

Photo27:白物家電向け。モータ制御が充実しているあたり、S3の用途はしっくりくる

Photo28:S3は割と広い範囲に適用を考えているようだ