クラウドで必須となる安全な通信をいかに簡単に実現するのか

もう1つの特徴が「Safety & Security」である。特に通信の秘匿化はクラウドでは重要なファクターとなる。これにむけて、Renesas Synergyは全シリーズでTRNG(True Random Number Generator)を搭載し(Photo15)、これを利用して公開鍵を生成できる(Photo16)。

Photo14:TRNG(True Random Number Generator)は鍵生成のSeedとして利用される

Photo15:Synergyは全製品で対称型の暗号化エンジンを搭載し、S5/S7は非対称型の暗号化エンジンも搭載される。このあたりは別記事で

Photo16:公開鍵はアプリケーションからアクセスできる形で利用できる

さらに秘密鍵を秘匿する仕組みも搭載される(Photo17)。セキュリティ用途向けMCUではそう珍しい機能ではないが、汎用製品でこれを搭載するのはちょっと珍しい。もちろんこの機能はアプリケーションだけでなく、QSA/VSAアプリケーションからも利用可能で、例えばこれを利用してSSLを実装することも可能という話であった。

Photo17:秘密鍵は当然アプリケーションから直接アクセスできない場所に秘匿されるが、その格納場所も秘匿化されてAnti-Tanper性を高めている

こうした仕組みを搭載することで、開発効率を従来(Photo18)から大幅に削減する(Photo19)のみならず、削減した分をより差別化に振り分けられる(Photo20)と説明するが、まぁこの話はある意味必然というか当然であって、そう珍しいものでは無い。

Photo18:この議論の前提にあるのは、競合製品と同じCortex-MベースのMCUである、という事である。つまり同じARMベースのMCUを利用した他の製品と比較してどうなるか、というポイントだ

Photo19:Driver Software Design→Cloud Connectまでの手間を圧倒的に短縮できる、とする

Photo20:Application codeの部分は「プログラムの差別化」、Additional innovationの部分は「製品の差別化」と位置づけている事が興味深い

もちろんルネサスは、引き続き従来のRZ/RX/RLといった製品も供給する。こちらはすでに利用している開発者にとっては学習する時間も必要なく利用できるものである。基調講演の中では特に触れられなかったが、DevCon開催に先立つ10月8日に米AmazonはAWS IoTを発表しており、これに対応したRX63NベースのStarter KitがMicriumから発売されているなど、別にSynergyだけに注力をする訳ではなく、両方のソリューションを今後も提供する事を重ねて強調した。

Photo21:こちらのシリーズの今後のロードマップもDevConのセッションの中では示されているが、これも別記事で

さて、ここからはクラウド側である。Synergyを使うにしろ使わないにしろ、クラウドサーバとの接続は絶対に必要になる。これを自分で作るか、それともあるものを使うかは常に問題になる(Photo22)。

Photo22:Embeddedと一口で言っても多用多種なアプリケーションがあるから、すべてをカバーする汎用のクラウドサービスは必ずしも有益なソリューションになるとは限らない

Photo22の例で言えば左下の土木機械。これの位置管理とか資産管理、稼働状況などといった事をクラウドベースで行う場合、新規に作りこむよりも既存のサービスとの融合を考えたほうが効果的である。そうした観点から発表されたのが、Zebra Technologies Corporationとの協業である(Photo23)。Zebra Technologiesが提供するZatar IoT Cloud Serviceはヘルスケア/小売/製造/輸送の各分野に向けたソリューションを提供しており、ルネサスはSynergyにこのZatarと接続できるためのソフトをVSAの形で提供、簡単に利用できるようにする(Photo24)。

Photo23:接続に必要なソフトウェア(というか、Stack)は当初VSAの形で提供されることになる、との話であった(これも別記事で)。これは次のVerisonとの接続も同じである

Photo24:これはZatarの管理画面。低温輸送が必要な貨物のトラッキング画面の例である。こうしたシステムに必要となるEnd NodeをRenesas Synergyを利用する事で簡単に構築できるという話

もう1つがVerizon Communicationsとの協業である(Photo25)。

Photo25:Verizonとの協業は、クラウドサービスそのものというよりは、クラウドに接続するためのアクセスラインに関するものと考えるのが妥当だろう

Verizon Communicationsは現時点では米国No.1の携帯電話キャリアであり、全世界に200以上のデータセンターを保有するクラウドプロバイダでもある。この協業により、ワイヤレス接続となるIoTデバイスの構築がより容易になると説明した(Photo26、27)

Photo26:これを利用した例がBug Labsのサービスである。これはFreeboardというサービスであるが、元々Bug LabsはVerizonと協業しており、結果Renesas SynergyをBug Labsのサービスにスムーズに組み込める事になる

Photo27:これは別の例。例えば救急車の中で患者の状態をすぐにワイヤレスで病院と共有できれば、搬送後の効果的な対応が可能になる