実務で役立つ権利のはなし
ここからは、実際にゲッティイメージズで販売されている写真などを用いて、実務に参考となる知識が列挙されていった。
同社だけでなく、国内外さまざまな提供社から販売されている「ストックフォト」。撮影せずに素材写真を探せるのは便利だが、こうした素材を使うときにも、気をつけたい権利がある。販売されている写真だから、写っている人物も素材となることまで了承済みだろう…と思いこみやすいところだが、"撮影こそ了承したが、写真の販売は了承していない"というケースもあるそうだ。
被写体が商用利用を確認していない写真を広告などに利用すると、被写体から肖像権侵害を訴えられることもある。そのため、杉渓氏は購入前に「モデルリリース」を取得していることが、素材のWebページに明記されているかを確認することを勧めた。
「モデルリリース」とは、被写体たる人物から自分の写った写真の商用利用に関する許諾である。書面での説明・サインが主流だったが、昨今はスマートフォンアプリでの確認をするケースもあるのだとか。多くの人が走っているマラソン大会の様子を俯瞰で撮影した写真では、ゲッティイメージズ側がランナーたち全員にモデルリリースの確認を取ったのだという。
また、農水省の広報誌「aff(あふ)」掲載の写真について、杉渓氏が直接権利関係の問題の有無を解説する場面もあった。イベントに集まった人々を後ろから撮った写真に「肖像権」は適用されるかどうかという疑問には、「(顔が正面から写り込むなど)個人判別ができなければ、肖像権は問題にならない可能性が高い」というコメントを寄せた。
一方、農家の人々がカメラ目線で写っている集合写真に対しては、「取材内容や掲載先について説明がされている可能性が高く、自分の写真が利用されることに対する黙示の許諾が認められるケース。そのため、「モデルリリースをいただくに越したことはないが、なくても権利侵害と言われることはないだろう」と語った。そのほか、市長らによるテープカットの写真は、「取材向けにセッティングされた場面であり、その撮影・公表は当然予測の範囲内であるから、許諾書をもらうようなシーンとはいえない」とのことだった。
最後に、ゲッティイメージズが行っている権利処理サービスと事例の紹介が行われた。 ゲッティの中でも、古い写真の中にはモデルリリースがないものもある。それを利用する場合、ゲッティのライツ部門が利用者に代わって使用許諾を得る「ライツ&クリアランス」というサービスがある。
象徴的な例として、フランスの名所・エッフェル塔は、昼間の様子はパブリックドメインとなっていて、誰でも撮影し、発表することができる。驚くことに、これが夜になると話が一転。建物自体はパブリックドメインだが"ライティングに芸術性がある"ということで、著作権が発生するため、夜のエッフェル塔の写真を利用する場合には、著作権料が発生する。
そのほか、非常に古い写真など、権利者を特定するのが困難な写真を利用する場合には、仮に被写体などからクレームが入った場合、ゲッティ社内の専門家が対応する「免責サービス」もあるということだった。
ストックフォトというと膨大な写真を提供するコンテンツ提供サービスというイメージが強いが、杉渓氏は、「弊社は写真を売る側でもありますが、写真や映像を売りたい側/買いたい側のニーズをマッチングさせる業務を行うという面もあります」とコメント。商用利用を行う際には、単なる素材としての利用だけでなく、リスク回避も提供サービスのひとつだと語って、場を締めくくった。