近年、安価な万年筆が充実してきたこともあり、万年筆を持つことがぐっと身近になった。定番の"クラシックで重厚なデザイン"以外の選択肢が増えたこと、特にパイロットの「カクノ」やペリカンの「ペリカーノジュニア」などをはじめ、ポップなデザインでよりカジュアルに持てる物が増えてきたことは、以前おすすめ万年筆の記事で取り上げたところだ。

今回は、東京都・表参道「文房具カフェ」の奥泉輝店長に、最近の万年筆まわりの話題と共に、1本目の万年筆を持ったら次に着目したい「インク」についての情報を教えてもらった。

奥泉 輝(おくいずみ あきら):文房具カフェ店長。祖父が創業した紙製品・文房具の卸売会社を兄と運営するなか、人と文房具が出会うことで創造的な何かが生まれる場所というコンセプトのもと、2012年より同店舗を展開。同年より現職

静かに高まる万年筆フリークの熱気

万年筆ユーザーの広がりは、今年の「日本文具大賞」に、万年筆のためのアイテムが選ばれたことからも実感できます。文具見本市「ISOT」内で発表される、毎年注目の文房具が選ばれている賞ですが、文房具フリークから見ても、今年のグランプリは意外なものだったと話題になりました。

グランプリに選ばれた「SUITO」は、インクを吸入する際などに汚れてしまう万年筆のペン先をきれいにするための専用紙です。吸い取り紙を万年筆の手入れに最適化したもので、手を汚さずにインクの拭き取りができる、万年筆ユーザーにとってはかゆいところに手が届く一品です。

こうした一見マニアックな用途の文具がグランプリを受賞したのは、今の万年筆の人気を反映したものと言えるでしょう。

黒だけじゃない、万年筆インクの世界

万年筆のインクというと、現代では黒が一般的で、伝統的なブルーブラックを使う方もいます。ですが、その他の選択肢も実はたくさんあるんです。

紫陽花、天色、朝顔、竹林、冬柿、冬将軍、稲穂、孔雀、秋桜、紺碧、霧雨、紅葉、紫式部、深緑、深海、松露、竹炭、土筆、露草、躑躅、月夜、山葡萄、山栗、夕焼け…突然、四季折々の花鳥風月を思わせる美しい名前を並べましたが、実はこれ、すべてパイロットの万年筆用インクの名前です。

このインクシリーズ「色彩雫」は実に24色もの種類があり、昨年はそのミニボトルバージョンも発売された人気商品。万年筆のインクというとブルーブラックの印象が強いですが、服を選ぶように好きな色のインクを選ぶことができるのも、万年筆の人気を加速させる一因と言えそうです。

ちなみに、万年筆=ブルーブラックという印象は、万年筆が筆記具としてメジャーだった時代、長期保存に耐えうるよう開発されたインクの色から来ています。