Intelは、18日から米国サンフランシスコで開発者向けのイベント「Intel Developer Forum」(IDF)を開催した。これは、例年Intelが開催している恒例のイベントだが、今年のIDFは意外なことに「IoT」が中心となった。

Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏

Windows 10の発売に合わせて、"Skylake"(開発コード名)こと第6世代Coreプロセッサの出荷が開始され、今回のIDFでもSkylakeに関するセッションはあるものの、イベント全体の軸となっているのは「IoT」だ。今回は「Developed by You」をテーマに掲げ、PCのように特定のメーカーだけが製造するのではなく、IoTのようにさまざまな企業などが開発を行うというイメージを出している。

初日に行われた基調講演でも、IoTやそれに関連するものに重点が置かれ、IntelメインビジネスであるPC用CPUの話題はほとんど入っていなかった。なお、CEOがブライアン・クルザニッチ氏に変わってから2回目のIDFとなるが、前回は技術を前面に出す基調講演ではなかったが、今回はIoTメインながら、多数のデモを交えた比較的技術を前面に出すものとなっていた。

音声でシステムをスリープから復帰させる「Wake-on-Voice」

クルザニッチ氏ははじめに、「技術の進歩により、コンピューティングが個人化してきた」という。これはPCだけでなく、さまざまな開発用ボードが普及し、従来ならば組み込み機器のカテゴリーに入るようなものでも、個人で作ることができるようになってきたことを指している。

「コンピュート」は、個人化しているとクルザニッチ氏

こうした背景には、3つの仮定条件があるという。それは

  • 「Sensification」(センサー化)
  • 「Smart and Connected」(スマートでつながっていること)
  • 「Extension of You」(あなたの延長)

だという。「Sensification」とは、センサーを組み込んで、状態などを把握できるようにすることを意味するものだろう。

クルザニッチ氏は3つの仮定条件を示した

クルザニッチ氏は、ここでセンサーを活用するIntelの技術を紹介していく。最初に紹介されたのは、Windows 10で利用できる「Wake-on-Voice」だ。

これは「Wake-on-LAN」などと同じく、スリープ中のPCをリジュームさせるものだ。デモでは、スリープしているPCに「ヘイ・コルタナ」と呼びかけて復帰させた。Windows 10では、従来と違って、利用可能なすべてのPCで、スリープに「S0 Low Power idle」状態を使う。

Microsoftと共同開発したという「Wake-On-Voice」。スリープ中のPCに「ヘイ、コルタナ」と話しかけることでリジュームして、コルタナが起動する

「S0 Low Power idle」は、Windows 8のConnected Standby(Instant Goとも)を発展させたもので、HDDのような機械的な外部記憶やオフロード機能のないネットワークアダプタなどにも対応できるものだ。

簡単にいえば、最近のCPU(ただしファームウェアなどが対応している必要がある)を使っていれば、Windows 10はデスクトップPCなどでもS3/S4ステートを使わずに「S0 Low power idle」状態のまま画面を消しスリープ状態にはいる。Connected Standbyとの違いは、バックグラウンドで通信するかどうかでしかない。

これをModern Standbyとマイクロソフトは呼んでおり、音声デバイスなどからのイベント通知があれば、Windows 10は、いつでも復帰することが可能になる。Wake-on-Voiceは、このうえに構築された機能だと考えられる。

コルタナのデモでは、「ジョーク言ってみて」と話しかけると「なぜ蜘蛛は学校にいかないの? 全部Web(蜘蛛の巣の意味がある)で学んだから」と答えるユニークなものも

Androidにおける音声の遅延を最小化

次に紹介したのは、Androidのサウンド機能だ。これは、音声発生までの遅延を最小化したもののようだ。デモは、鍵盤を表示したソフトウェアで、音が鳴るまでの時間を見せるものだが、Android Mでは音が出たのに対して、Lollipopのほうでは音が出ず、比較することはできなかった。

Androidでは、Googleと共同でオーディオの遅延対策を行なった

デモでは、鍵盤で音を出すアプリを使って効果を見せる予定だったのだが、Lollipop搭載機では音が出ずに比較ができなかった

Androidのオーディオシステムには、音声データのパスにLinux由来のALSA(Advanced Linux Sound Architecture)やAudio Flinger(ミキシングやボリュームなどを制御する)などがある。このあたりで10ms程度の遅延が発生していると言われている。おそらくは、この部分を改良するなどして遅延を小さくしたのだと考えられる。

Intel Realsenseカメラの活用を推進

次にクルザニッチ氏は、Intel Realsenseカメラを内蔵したスマートフォンのプロトタイプを見せた。これは、GoogleのProject Tangoに対応したスマートフォンだ。Project Tangoは、現実世界を3次元モデル化するもので、そのために専用の機能を持ったスマートフォンを使う。

Realsenseは、Intelが提供するカメラやソフトウェアなどからなる技術。最初にリアルセンスを使い立木の中を自動で飛ぶドローンのビデオを見せた

IntelとGoogleが開発したRealsenseカメラ内蔵のスマートフォン(プロトタイプ)

現実世界の3次元モデル化には、奥行き方向を検出できる機能が必須となるが、Realsenseカメラは、赤外線を使って奥行き情報を得ることができる。なお、奥行き方向を取得できるカメラ機能以外は、ほとんど普通のLTEスマートフォンである。

このスマートフォンは、Project Tangoに対応でき、現実世界を3Dモデル化可能

Project Tangoでは、奥行き情報を得られるカメラを使い、現実世界の3次元モデルを構築する。これはステージに作られたリビングを3次元モデル化したもの。手前の白い線は、スマートフォンの動きを示す

Intelがこのところ普及を推進しているのがこのRealsenseカメラだ。PCやスマートフォン用、背面用(高解像度)や前面用(低解像度)など複数の製品が用意されている。最近では、タブレットやメーカー製PCなどに採用された機種が登場しはじめている。

また、Intelは、IoTビジネスの推進ということもあり、PCやスマートフォン以外の用途でもRealsenseカメラを利用できるようにSDKを用意したり、さまざまなオープンソースプロジェクトに関わるなどの活動をしている。

例えばゲーム用途では、UnityやUnreal Engineなどに対応している。基調講演では、ロボット用のオペレーティングシステムROSへの対応が言及され、具体的にこれを使ったロボットも紹介された。そのほか、PC/Windows以外への対応なども行われつつあり、広く普及させたい考えだ。

Realsenseをコンピュータービジョンで使うロボット。ホテルなどの屋内を自力走行できる

ROSは、ロボット用に作られたオペレーティングシステム。Realsenseは、このROSにも対応するという

ドライビングシミュレーター。Realsenseカメラがドライバーの頭部の位置を把握して表示などを変化させる

また、デモではサードパーティの外付けRealsenseカメラが紹介された。液晶一体型以外のデスクトップPCでは、外付けのRealsenseカメラがないので、事実上Realsenseが利用できないという状況だったが、ようやく外付けのRealsenseカメラが製品化されるようだ。開発は米Razerで、出荷は2016年の第1四半期を予定しているという。

RazerのRealsense外付けカメラを利用すると、ゲームのストリーミングでプレーヤー画像から背景を抜いて画面に合成できるといったことが可能となる

極小モジュール「Curie」や次世代メモリ技術「3D XPoint」の情報も

続いてクルザニッチ氏は、2015年1月に発表した「Curie」を紹介した。キュリーは、Bluetooth LEや各種センサーなどを搭載したボタン大のウェアラブル向けモジュール。デモでは、自転車にキュリーを内蔵し、位置やハンドルの向き、速度などをリアルタイムに取得するものを見せた。

Curieを内蔵し位置や状態をリアルタイムで検出できる自転車のデモ。PC側で動きを解析して技を判定できる

Curieには、Intel IQ Software Kitsが提供されているが、今回新たにTime IQ、IDENTITY IQのキットが加わった。IDENTITY IQを使うと認証機能をCurieに組み込むことができる。デモではキュリーを組み込んだブレスレットでWindows 10のWindows Halloを動作させログオンを行なうところをデモした

また、最後に将来に向けた製品として「Intel Optane Technology」を発表した。これは、先日Micronと共同で発表した3D XPointメモリをベースにした製品群のブランドだ。

3D Xpoint技術を利用したOPTANE技術を発表。これは、3D XPointメモリを使う製品のブランドだ

3D Xpointは、3次元構造を使い、NANDフラッシュよりも高速、長寿命のメモリなのだが、いまだに記憶原理が秘密のままだ。これがベンチャー企業なら、疑いの目で見られるところだが、さすがにIntelともなれば疑うものはいない。

OPTANEによるSSDが動作しているデモ。NANDのSSDとの速度を比較。7倍程度の性能が出ていた

ほかのセッションなどとの情報を合わせると、OPTANEは、M.2や2.5インチHDDのフォームファクターのSSDと「Intel DIMM」と呼ばれるDIMM型の製品が登場する予定だ。前者は、高速大容量のSSDとしてすぐに需要があるものだが、後者は、「不揮発性」の「大容量メインメモリ」を実現するものだ。

ただし、アクセス速度は、DRAMよりも遅くなる。DDR4と電気的には互換性はあるが、制御には別のプロトコルを利用するという。このため、メモリコントローラー側で対応が必要になるようだ。Intelとしては次世代のXEONから対応する予定とのことで、最初に登場するIntel DIMM製品は、ライトバックキャッシュ用にDRAMを搭載したもの(JEDICでいうNVDIMM-N)になるという。

IDFでSkylakeの影が薄い理由を考える

さて、IDFの基調講演のレポートをお届けしたが、冒頭で示した通り、ほとんどIoT関連の話題となった。ただ、これによってIntelがSkylakeよりもIoTに注力していると示されたかといえば、必ずしもそうではない。というのは、IDFで開催されるテクニカルセッションには、Skylakeのアーキテクチャや、第9世代の内蔵GPUに関する内容がちゃんと用意されていたからだ。

おそらく、Windows 10のリリースが前倒しとなり、SkylakeのK Skuを本来予定していたタイミングよりも早く出荷したため、IDFのタイミングに重なってしまっただけで、もともと今回のIDFではIoTをメインにする予定だったのだと思われる。

Windows 10については、当初、2015年秋ごろのリリースとアナウンスされていた。メーカー各社もこのタイミングに合わせて、プリイントールマシンなどを用意する予定だったという。おそらく、Skylakeも2015年秋に向けて、IDFや製品発表などの計画が作られたと考えられる。

ソフトウェアはできてすぐに、ネットワークを通じた配布もできるが、ハードウェアはそうはいかない。製造や製品発表、その後のマーケティングはより計画的になる。ましてや、多くのメーカーがこれを採用するCPUとなればなおさらだ。おそらくIntelとしては、今回のIDFも当初の「計画」通りに進めているということだろう。