「次のiPhone」と「Apple SIM」
続いて、9月に発表されると目される次期iPhoneが「MVNO」というキーワードと紐付いたことも考えられる。
2014年に発売されたセルラー版のiPad Air 2とiPad mini 3には、「Apple SIM」と呼ばれる独自のSIMカードが搭載されて発売された。このSIMを搭載しているiPadでは、「設定」アプリから好きなキャリアを選んで、すぐにデータ通信を利用できる仕組みになっている。
米国ではAT&T、T-Mobile、Sprintの3つのネットワークが賛同しており、英国でもEEが利用できる。ユーザーは米国内でもiPad上からキャリアを乗り換えることができ、海外に行った際に現地のキャリアの契約を行うことも可能だ。また90カ国のデータ通信をサポートするGigSkyも選択可能になっている。
ただし、AT&Tは、Apple SIMに賛同していながら、一度AT&Tを選択すると、AT&T以外のキャリアを選択することができなくなってしまう。Apple SIMのメリットは半減してしまうが、在庫や流通の面で、Appleにとってはキャリアごとのパッケージを用意しなくてよく、そして新製品をいち早く購入したい顧客にとっても有利になる。
こうしたいわば玉虫色のSIMともいえるApple SIMが、2015年に発売されるiPhoneにも搭載されることになるだろうか。
ちなみにFinancial Timesによると、Apple、Samsungと、米AT&T、T-Mobileの親会社である独Deutsche Telekom、仏Orange、英国Vodafone、スペインのTelefonicaが、e-SIMに関する競技を行っていると報じており、次世代iPhoneにApple SIMが搭載される可能性は高まってきた。
Apple SIMの実現はキャリア側にとっては大きな変動となる。
Apple Storeやキャリアの店頭で、Apple SIMで契約するプランをレクチャーするだけで契約が済んだり、機種変更が終わるようになると、手続きも簡略化され、またキャリアが魅力的なプランで競争しなければ、簡単にキャリアの乗り換えを起こしてしまう競争状態が作り出されることも考えられる。
Apple自体はネットワークを提供しないが、世界最大数のSIMを発行する企業になることはあり得る。いずれにしても、スマートフォンや回線契約の販売方法への変化や、Apple Storeが重要な場になるなどの変化が促され、Appleの業界に対するモバイル業界での影響力はより強まっていくことになるだろう。
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松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura