――ゲームルールのお話が少し出たところで、「スプラトゥーン」のゲームシステムについても少しお聞かせください。今回聞き取りをしたクリエイターの中には、「ルールが画期的」とコメントする方や、「こういったジャンルのゲームはやったことがなかった」というような声が複数ありました。現実に存在する銃を武器として「敵を倒した数」を競うのではなく「塗った面積」を競うというルールが生まれたきっかけを教えていただけますか?

■イラストレーター・agoera (29)・男性
■お気に入りのブキ:スプラシューターコラボ
TPS(Third-Person Shooter/Shooting)はには初心者が挫けてしまうのではという先入観がありましたが、殺伐としていないポップな雰囲気で入り込みやすく、ルールはシンプルなようでいざ突き詰めていくと色々な戦い方の発見があったりと、飽きさせない要素が各所に散りばめられているのがすごいです。

■アートディレクター・岩屋民穂・男性
■お気に入りのブキ:プロモデラーRG
TPSなど銃器を用いるゲームが戦争を主とした“殺し合い”の戦場を楽しむものだったのに対し、ポップなキャラクターとグラフィック、“陣取り”というルールを組み合わせることによって誰でも楽しめる“スポーツ”として扱った点。それでいてマニア向けなゲームを大衆向けにアレンジする際に有りがちな「運」に左右される要素を一切入れずに、プレイヤー同士の実力勝負を貫いている点がいいですね。ゲームの優位性に関わるやり込み要素が薄いので、仕事のちょっとした合間に短時間で集中して遊べるという部分も大きいかなと思います。

■イラストレーター・田中寛崇 (28)・男性
■お気に入りのブキ:スプラシューターコラボ
これまでは互いを撃ち合いスコアを競うのが主だったTPSゲームを、インクを塗った面積で競わせるという画期的なルール設定に脱帽。

■作・編曲家 ・こおろぎ (32)・男性
■お気に入りのブキ:プロモデラーMG
スプラトゥーンのためにWii Uも一緒に購入。はじめてゲーム機を買いました。それほどまでに、見てるだけでも楽しさが伝わってきました。僕はオンラインゲームでは人間関係が発生するのがめんどくさいなと思っているタイプなのですが、スプラトゥーンは人間関係に煩わされず、スポーツのようにスッキリと楽しむことができます。マッチングで敵味方がランダムになったり、味方にも「ナイス」など、ポジティブなメッセージしか送れません。このあたりの設計はかなり配慮を感じます。

野上 : そもそも、このタイトルが「TPSを作る」というところから始まっていないんです。一番最初にプログラマが試作したプログラムが「インクを発射して陣取り合戦をする」というものだったんですね。それがおもしろかったので、商品にしようと発展させていったのが今の「スプラトゥーン」なんです。

「ナワバリバトル」という名前もあとからできたものです。インクを塗って遊ぶのが楽しいという前提があって、背景をつけるならどういうところがいいだろうと考えたら、先ほど井上がお話しした通り、ファンタジーよりは現実に近い世界のほうが、いたずらっぽさが強調されていいだろうと。それなら、そこにいるヒトは、いかにもそんな遊びをするようなティーンエイジャーだろう、と。こうして積み重ねていった結果、おっしゃったような「ホンモノの銃で打ち合う世界」ではなくて、イカの若者たちが遊びでやっている、半スポーツ・半遊びみたいな雰囲気へと必然的にまとまっていきました。

イカの若者たちが集う「ハイカラシティ」。現実の繁華街をモチーフにしたような雰囲気となっている

井上 : 「インクで塗る」という行為は、ゲームで表現していることとしては規模が小さいんですね。例えば、ゲームの中であれば魔法で何かを壊すだとか、そういう表現だってできるわけです。

魔法であればジャンプでかなり高いところまで行けたりすると思うですが、このイカたちは(スーパージャンプというコマンドを除いて)あまり高いところまでジャンプができない。なので、現実的な動きを気持ちよく感じてもらうため、インクで撃つということ自体が大きなアクションに見えるように設計しています。

――なるほど。確かに、さまざまな種類のブキがありますが、どれも使った時の手応えが違って、かつ「最強」のものが固定されていないように感じます。

野上 : ブキに関しては、本当に時間をかけて磨き上げました。インクの出方や音もブキごとにひとつひとつ変えてあったりするので、手応えが違うように感じていただけるのだと思います。

「このブキが最強」だとおっしゃっているかたがいるのは認識しておりますが、いろんなブキにおいて、このブキが最強だと言っている方がいらっしゃるので(笑)、それはそれでバランスがとれているのかなと思っています。

――その方にとっての最強、ということですね。ちなみにおふたりの使いやすいブキは?

野上 : 僕は一番よく使うのが「スプラチャージャー」です。対戦ルールやステージによって3種類くらい使い分けていますね。

井上 : 「N-ZAP 85」を一番よく使います。私がこのブキを使うと、バトルの結果への貢献が大きいわけではないのですが、自分が(ステージ上の自陣における)ラインを守ったとか、センサーで味方を助けたとか、そういったところが実感できるのが面白いと思います。

野上 : 最終的なスコアとか、敵を何回倒したかという「数字になる」貢献ももちろん大切なんですが、自分自身が戦いの中で味方にこれだけ貢献できたという感覚を持てるのが一番大事なことだと思っています。強い弱い、だけではなくて、そういう感覚を持てるブキを使っていただくのもいいのかなと思っています。

――話がキャラクターの方へと戻るのですが、先ほど「インクリングの見た目を限定した」とおっしゃった一方、同じ種族の中で容姿の違うキャラクターとして、アイドルのシオカラーズ(アオリ、ホタル)がいます。プレイヤーには熱烈なファンが多く、広場には彼女たちを描いたイラスト(Miiverse)も投稿されていますが、彼女たちを登場させた理由は何だったのでしょうか?

■美容師(22)・女性
■お気に入りのブキ:.52ガロン
とにかくキャラもかわいくて、ゲームをしていなくてもキャラに見惚れてしまう時があります。シオカラーズはもう、可愛すぎます!!アオリちゃんに返すホタルちゃんの言葉が面白くていつも微笑んじゃいます!

井上 : 「ごはんとパン、どちらが好き?」など、特定のお題をもとにふたつの陣営に分かれて戦う「フェス」というイベントをやりたかったのが大本にあります。ゲームの外に広がって行くようなイベントをやりたかったんです。それを先導するというか、象徴するヒトとして、対になるふたりのキャラクターを考えました。

「フェス」:特定の日時に時間を限って行われる"お祭り"(週末にかかる24時間が通例)。プレイヤーがふたつの陣営のどちらかに属してナワバリバトルを行い、「得票率」と「勝率」の合計で競う。フェス開催発表~終了まではお題にちなんだデザインの「フェスT」を着用可能で、フェスの最中はハイカラシティも"フェス"仕様となり、シオカラーズが広場で歌い踊り、それを囲んでイカたちが踊る

野上 : シオカラーズは、今の形になる前は「チアリーダー」や「巫女」というイメージを持っていたんです。「カミさまからお告げを受けて代弁するヒト」という役割なので。でも、巫女ってカタいよねという話になって、この世界ならアイドルが合うだろう、と。

――シオカラーズの容姿や性格はどういったイメージから構想を広げていかれたのですか?

シオカラーズ(左:アオリ、右:ホタル)。彼女たちが司会を務めるゲーム中のテレビ番組「ハイカラニュース」の終わりに、このポーズで「イカ、よろしく~」と言って締めるのがお約束となっている

井上 : シオカラーズの雰囲気は、ローティーンという設定のインクリングが親近感や憧れを抱ける、デビューしたてのアイドルというようなものにしました。

野上 : 地方テレビに出始めたころのゆるい雰囲気をイメージしています。

井上 : たとえるなら、埼玉や神奈川であれば全員知っているアイドル、みたいな。

野上 : 「ハイカラニュース」はハイカラシティのローカル放送というイメージなので。あの街ではすごい有名人だけれども、まだ全国区には行っていないかもしれないですね。

井上 : 深夜番組にもそういったところがあると思うんですが、勢いがあって、ちょっとだらけてやっていても、それがいいよねと言われているくらいの雰囲気にしました。そのくらいの方が見ていて面白いなというのがあったので。

――たしかに、シオカラーズがステージ発表をする時のかけあいも、やりとりが何というか…

野上 : 適当ですよね。

ゲーム開始時や何かお知らせがある時に流れる「ハイカラニュース」。天真爛漫なアオリ(左)とクールなホタル(右)のふたりによるシオカラーズが司会を務めている。画像はその時間帯に遊べるステージの発表だが、非常に"ゆるい"やりとりが特徴

―― (笑) いわゆる「ゴールデンタイム」風ではない、インディーズのゆるい良さがありますね。

野上 : また、シオカラーズが「イカ、よろしく~」のポーズをする時には手が強調されますが、あの場面を見ていただくと、先ほど申し上げた「イカソーメン」、指先が四角くなっているのが分かりやすいと思います。

――巫女というコンセプトはアイドルに置き換わりましたが、不思議な「カミさま」はゲーム中に登場します。「カミさま」は何かわれわれの知っている家電に近いように見えるのですが…?

野上 : どこかで見たことあるような形ですよね。

井上 : イカたちが暮らしている1万2000年後の世界に、これまでのフェスのお題になった「午後の紅茶」や「赤いきつね」と「緑のたぬき」はないんですけれど、今の世界で発信した電波がゆっくりと跳ね返ってきて、6000光年くらい向こうに行ってから、跳ね返ってきて受信したみたいなイメージです。

野上 : ボイジャーみたいな探査機のなかに発信器が積まれていて、地球からはどんどん遠ざかって行っているんですけど、そこからちょっとずつ電波が飛んできて、「ミルクティーとレモンティー、どっちが好き?」みたいな、しょうもない質問が送られてくる。イカたちはよくわかってないけれど、聞かれたからには何となく答えておこう…みたいな感じで、フェスに参加しているんだと思います。

後編では、スプラトゥーンにおける「ファッション」、そして魅力的なサブキャラクターのひみつに迫っていく。

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