スマートウオッチには参入するのか!?

ここ数年ですっかりひとつのカテゴリーを形成した感のある「スマートウオッチ」。Apple Watchの発売も大きな話題となった。40年以上のデジタル時計製造経験を持ち、エレクトロニクス技術を得意とするカシオも「いつ参入するのか」と聞かれることが多いという。

増田氏「現在のリストデバイス系のいわゆる"スマートウオッチ"は、過渡期的な商品だと思っています。カシオでも時計事業とは別の部門でリストデバイスの研究開発を進めていますが、ビジネスとしての市場評価は、まだ何ともいえません。

アップルさんは、OSもクラウドサービスもハードウェアも自社で囲い込めるので、製品開発や進化の舵もとれるし、ビジネスモデルの構築もしやすい。一方、現状のAndroid Wearはスマートフォンの周辺機器、あるいは機能拡張としての性格が強いと思います。

スマートフォン本体を発売していないカシオがそれをやっても、(ビジネスとして)あまり意味がないのではと個人的には思います。アップルさんのようにOSを含めて提供できないと、ただの箱屋になってしまいかねないので…。とはいえ、それは現実的に難しいでしょうね」

確かにその通りだ。それに、筆者も大ヒットしたAndroid Wear端末というものを寡聞にして知らない。カシオも企業である以上、市場参入への見極めにはそれなりの判断があって然るべきだろう。

カシオメタルアナログウオッチで初めてスマートフォン連携に対応したEQB-500

増田氏「どんな製品をどのように位置付け、どう伝えていくかがはっきりしないまま焦って製品をリリースしても、お客様には特徴のある製品として認知してもらえません。ですから今は、動向を興味深く見守っているというところですね」

その上で、カシオが現在考える「スマートウオッチに近いアプローチ」は、EQB-500やEQB-510のようなスマートフォン連携のスタイルだと、増田氏は語る。

増田氏「スマートフォン連携には、まだまだ多機能化とそれに裏打ちされた表現の可能性が残されていると思います。そのひとつは、冒頭でも触れたアナログならではの表現力。

ちょっと具体的にお話しすると、針というアナログ時計ならではのインタフェースをどう活用できるかがポイントです。この動きをさらにリッチにして、より使う人の肌に馴染むものにしていく。私は近頃、"表現から表情へ"という言い方をするんですが、時計の動きに豊かな表情を与えたいと思うんです。もちろん、ただ面白く動けばいいのではなく、しっかりした機能を物語る表情でなくてはなりません。

それをどこまで実現できるかはエンジニアの腕次第、というところもありますが、カシオのエレクトロニクス技術とマルチドライブモーターだから実現できる、高度な機能、そして、それを表現する針のリッチな表情。今はそんな時計を目指して開発を行っています」

インタビュー中、増田氏はスマートウオッチを「様子見」としながらも、Apple Watchの画面を動かすときの滑らかさ、人間の五感に馴染みやすい演出、そしてケースの質感の高さや装着感の快適さなどに、非常に感心したと語るシーンもあった。「コアテクノロジーがデジタルという共通点はあれど、カシオの時計とスマートウオッチはアプローチが別」と語る増田氏だが、ことデザインに関しては、カシオが時計に見る未来と袖が触れる部分もありそうだ。

「使う人の肌に馴染むリッチな針の表情」とは、スイープ針のようなシームレスな動きか、レトログラード(針が扇形に往復動作する機能)のような変化球か、あるいは針の動作速度が変化するのか、そのどれもが見当違いなのか、想像は膨らむ。世界のステージにおけるジャパンブランドの躍進と、デジタルがドライブするアナログウオッチの次なる一手に、大いに期待したい。