3月3日と4日、パナソニックと九州旅客鉄道(JR九州)は、福岡市のJR博多駅・博多シティ改札口内スペースで「『WONDER JAPAN TRIP』 -2020年の観光を考える-」を開催した。同イベントは東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年を見据え、「観光立国・地方創生」をテーマに、多言語ソリューションを通じて九州の魅力を発信する体験イベントだ。

『WONDER JAPAN TRIP』は、JR博多駅改札内にスペースを設けて開催された

光IDサイネージの体験デモ向けに、九州各地の名産品も並べられていた

2014年、訪日外国人は1,300万人を突破。政府は2020年における2,000万人超えを目標としている。海外からの観光客増加によるインバウンド効果で日本全体はもちろん、地方の活性化にも好影響があると考えられるが、壁となるのがやはり言葉のコミュニケーションだ。

パナソニックでは2020年に向け、自動翻訳機や、光IDを活用したサイネージ技術などの多言語ソリューションを開発中。同イベントで来場者は、“言葉の壁”を超える最新テクノロジーのデモを体験することができた。

同イベントに先立ち催されたプレスイベントには、『WONDER JAPAN TRIP』の企画者である放送作家・脚本家の小山薫堂氏、主催両社を代表してパナソニック役員の井戸正弘氏とJR九州代表取締役社長の青柳俊彦氏、さらに観光促進を担う国土交通省から九州運輸局長の竹田浩三氏が参加。2020年に向けた観光立国・地方創生をテーマに、4氏によるトークセッションが行われた。

左から、パナソニックの井戸正弘氏、JR九州の青柳俊彦氏、国土交通省の竹田浩三氏、放送作家・脚本家の小山薫堂氏

まず、『WONDER JAPAN TRIP』を企画した小山氏は「いま、2020年に向けて日本中が一体になろうとしている。九州新幹線が通るときにも熊本県が一体となったが、大きなイベントがあると、それをきっかけに、そこで暮らしている人たちの心がひとつになる。2020年は日本がひとつにまとまる最高のチャンス。パナソニック、JR九州、国土交通省も含めた官民が一体となって地域創生を進め、そこから得られた知見を互いにフィードバックすることで、訪日外国人の“言葉の壁”解消に向けたコミュニケーションの方法を私としても考えていきたい」と語った。

続いて、九州の外国人観光客増加を目指す国土交通省九州運輸局の竹田局長が「2014年の九州への入国者数は167万人で過去最高。対前年伸び率も33%を超えている。九州は豊かな自然、多種多様な食文化、地域に根ざした伝統文化に恵まれ、外国人旅行者にとっても魅力がいっぱい。(全国で)2,000万人を目指すうえでも九州エリアは大きく貢献できるが、やはり受け入れ体制が課題であり、フリーWi-Fiの整備に加えて“言葉の壁”を乗り越える試みを進めていきたい」とした。

JR九州社長の青柳社長は、「九州には、とくにアジアからの観光客が大きく伸びている。JR九州では外国人観光客向けにレールパスを用意しているが、これが人気で、一昨年8万枚、昨年度は10万枚、今年度は16~17万枚という状況になっている。“D&S(デザイン&ストーリー)”というストーリー性を持った観光列車も外国人観光客に人気で、そのひとつ『ゆふいんの森』の平日の乗客は8割が外国人。となると大事なのはやはりおもてなしで、JR社員の周知教育も進めているが、コミュニケーションをさらに円滑にするためのツールの登場にも期待している」と述べた。

最後にパナソニック役員の井戸氏は、同社でビジネスソリューション本部、東京オリンピック・パラリンピック推進本部の本部長も務める立場から、「年々増え続ける海外からの旅行者が、いかにストレスなく日本を旅行できるか。パナソニックの技術で、インバウンド対策のお役に立ちたい。まずは2020年というターゲットに向けてパナソニックがどういうお手伝いをできるかがテーマだが、私たちは2020年以降の日本社会をどう新しく変えていくかについても大きな視点として持っている」と語り、開発中の多言語自動翻訳機と、光IDサイネージが外国人観光客だけでなく、福祉、医療などを含め、さらに先の日本全体にも大きく貢献できる可能性に触れた。

パナソニックの井戸氏が、ペンダント型自動翻訳機(左)と光IDサイネージに使うスマートフォン(右)を手に、両システムについて解説

トークセッション後、『WONDER JAPAN TRIP』の幕を掲げて4氏で記念撮影

自動翻訳機については3つのソリューションを紹介。ひとつは首からぶら下げるペンダント型で、現在は日英中韓の4カ国語に対応。近いうちに10カ国語対応にしていくという。「駅のような雑踏の中でも対応できるようにしてある。現時点の(音声入力から翻訳出力までの)タイムラグは約2秒だが、これをさらに短くしていくのが課題」と井戸氏。このほか、ホテルや観光案内所などに設置して観光スポットや店舗情報などまで表示できる据置型と、駅員や観光ガイドなどが現場で使えるメガホン型の自動翻訳機も紹介した。

一方の光IDは、デジタルサイネージやLED照明などから発する信号をスマートフォンのカメラがキャッチし、アプリが読み取ることで、瞬間的に多言語で商品説明などを表示する技術。同技術に関して、パナソニックでは50以上の特許を申請しているという。画像認識とは異なり光を読み取るので、多少の障害が間にあっても問題なく機能する。井戸氏は「光ID技術も、今後30カ国語、50カ国語でも対応できる。2020年に向け、“言葉の壁”のストレスをなくすため、パナソニックの技術で可能なものをいろいろと試し、提案していきたい」と結んだ。

ホテルや観光案内所などでの活躍が期待される据置型の自動翻訳機。中国の女性がデモンストレーションしていた。音声で話しかけると、観光やグルメ情報が表示され、地図も確認できる

メガホン型自動翻訳機「メガホンヤク」(仮称)の試作品も展示。日本語で入力した文を翻訳して大音量で出力できるため、駅員やツアーガイドが便利に使えそうな機器だ。現在は音声入力後にクラウドへアクセスして翻訳するため10秒から数十秒の時間がかかるが、これは今後短縮していくという

今回のイベントで主役となっていたのが、このペンダント型自動翻訳機。小型でウェアラブル、首から下げられるため紛失もしにくい。話しかけると、入力した内容と翻訳した内容が同時に表示されるので、正しく翻訳されているか確認することができる

間接照明からスマートフォンのカメラで信号を読み取り、該当する商品などの説明をアプリで表示する光IDシステム。手をかざした場合のように多少の障害物程度であれば問題なく読み取れるという。従来の照明に小型の器具を取り付けるだけなので、一般の店舗でも大したコストをかけずに導入できるそうだ

こちらはディスプレイからの直接光を読み取る光ID活用シーン。画面に表示されたものと関連する内容がスマホに表示されている。直接光だけに間接照明よりも一段と障害物に強く、人混み越しであっても問題なく機能する。直接・間接光を利用する多言語対応の光IDサイネージを街中に導入することで、外国人旅行者の言葉に関するストレスを解消するのがパナソニックのねらいだ