試聴室のリファレンススピーカーは「B&W 801シリーズ」、15cmのミッドレンジに25mmのツイーター、38cm大口径ウーファーを搭載した3ウェイ・フロア型スピーカーの銘品だ。定格出力高めのパワーアンプで鳴らすことが多い大型スピーカーなだけに、小柄なPMA-50にドライブする底力があるかどうか、こればかりは実際に試してみないとわからない。

試聴に利用した機器はカメラコネクションキットで接続したiPhone 6、再生アプリ「ONKYO HF Player」でFLACやDSDのハイレゾ音源を聴こうという寸法だ。PMA-50には、USB接続時に高周波ノイズを遮断する「デジタルアイソレーター」が搭載されているので、USB入力のほうがその真価を問えるはずという判断からだ。

老舗デノンが"デジタル"を駆使した実際の音は

背面のバナナプラグにケーブルをつなぎ、USBで接続したプレイヤー(iPhone 6 + カメラコネクションキット)の再生を開始すると、1mを超す高さのB&W 801が朗々と旋律を奏で始める。定位が明瞭で音像のボディ感もあり、個々の楽器の輪郭が鮮明に描写される。解像感とS/N比の高さは格別で、原音が実直かつリアルに表現されるという印象だ。このキレとクリアネスは、PMA-50にデジタルアンプ「DDFA」を採用したこと、結果として入力から最終段(PMW変換)までアナログ回路が介在しないがゆえだろう。

試聴はジャズ・女性のボーカル曲を中心に行ったが、基本的にはバランス力に長けオールラウンダーという印象。電源周りに物量を投入したアナログアンプと比較すると、低域がやや控えめで馬力感・ドライブ感が欲しくも思えるが、瞬発力ときめの細かさがそれを補って余りある魅力を感じさせる。

参考までにDDFAを搭載したCSR社のリファレンスアンプも同じ組み合わせで試聴したが、キレとクリアネスに通底する部分はあるものの、中高域の伸びや艶、音場感はフラット指向でクセがなく、ひとことでいえば"生真面目"。Advanced AL32 Processingを介すPMA-50のほうが、音の個性という点では際だっている。素材は同じでも調理法次第で味が変わる料理のよう、というところか。

一方、ヘッドホンアンプとしての力量も確か。基本回路はデスクトップDAC「DA-300USB」を踏襲しており、前段のオペアンプから後段に設置したディスクリート構成のバッファーを経由して出力される。ただし、電源部分の強化などの改良が加えられており、明らかに本機なりの"キャラ"も確立されている。

持ち込んだ開放型ヘッドホン「SHURE SRH1840」で試聴したところ、強化された電源が奢られた効果か低域に余裕が感じられ、分離感の高さも相まって広々とした音場を聴かせてくれた。3段階のゲイン切り換えも用意されているため、高インピーダンスのヘッドホンでも楽しめるはずだ。

全体の印象だが、この機能と価格帯(実勢60,000円前後)にして、このクラスの音という圧倒的なコストパフォーマンスもさることながら、最終的には35bit出力のフルデジタル処理、というD級デジタルアンプを駆使した新しいアプローチを評価したい。しかもそこにはデノンで培った音作りが生きており、確固とした個性がある。縦置き可能でワイヤレス対応という扱いやすさもあり、PCやスマートフォンと組み合わせたデスクトップ指向のプリメインアンプとして定番化する予感だ。

ディスクリート構成のヘッドホンアンプ部分は3段階のゲイン切り換えに対応、インピーダンス高めの「SHURE SRH1840」も余裕でドライブした

付属のインシュレータを付け替えれば、縦置きの設置も可能。ディスプレイも設置方法にあわせて表示方向が切り替わる

背面にはUSB B端子のほか、光デジタル×2、同軸デジタル×1のデジタル音声入力端子を配備