デノンが1月に発売した「PMA-50」は、ハイレゾ対応の小型プリメインアンプ。本体サイズはW200×D258×86Hmm、重さは2.5kg。縦・横両方向どちらにも設置できる。定格出力は50W+50W(4Ω)、バナナプラグ対応のスピーカーターミナルを備えるほか、ヘッドホンアンプとしても利用可能だ。

入力系統はUSB B×1、光デジタル×2、同軸デジタル×1、RCA×1、PCMは192kHz/24bit、DSDは5.6MHz(USB入力時)に対応。Bluetooth(A2DP)のコーデックはSBCとAACに加え、低遅延・高音質の「aptX Low Latency」をサポートする充実度だ。

なかでも注目は、英CSR社が開発したD級アンプ「DDFA(Direct Digital Feedback Amplifier)」を採用したこと。このサイズのミニコンポやプリメインアンプであれば、D級アンプを採用するオーディオ機器自体は珍しくないが、DDFAはスピーカー出力段直前までアナログ信号に変換されることがないフルデジタル処理であり、一般的なアナログアンプと比べても半分以下の0.004%という歪み率の低さを誇る。

主なアンプ方式におけるS/N改善の歴史をグラフ化したもの。DDFAの歪み率の低さは、既存のD級アンプはもちろん、アナログAB級アンプをも凌駕する(資料提供:CSR)

「デノンの音」をフルデジタルでどう再現するか

筆者が初めてPMA-50の音を聴いたのは、2014年末に実施されたポータブルオーディオのイベント「ポタフェス」でのこと(関連記事)。そのときは、用意された音源を備え付けの密閉型ヘッドホン「AH-MM400」で聴くことしかできなかったが、明瞭かつ奥行きのある音場感が印象に残った。D級アンプでの音作りにデノンの知見をどう生かしたか、という技術的な好奇心もさることながら、「このアンプを大型スピーカーで聴いてみたい」という一念で取材を申し込んだ。

取材は川崎・D&Mホールディングス本社にある、デノンの試聴室で行った。デノン・ブランドの音づくりにおける最終的なチェックを行う場所であり、残響の少ない、いわゆる"デッド"な音場を有する、試聴にはベストな環境といえる。立ち会っていただいたのは「PMA-50」を担当したマーケティンググループ マネージャーの宮原利温氏と、開発を担当した技師の山内慎一氏、CSR社でオーディオ製品を担当する大島勉氏の3名だ。

試聴の前に、いくつか質問をぶつけてみた。まずは製品のコンセプトについてだが、「ハイレゾが注目を集めるなか消費者のリスニングスタイルは多様化し、さまざまなソースに対応することへのニーズは高く、PCはUSB、スマートフォンはBluetoothでの利用を念頭に置いた。Hi-Fiカテゴリのプリメインアンプで幅30cm未満は初の試み」(宮原氏)とのこと。きょう体の小ささとハイレゾ再生もこなす高音質設計の両方をカバーしなければならない、ということだ。

D&Mホールディングス マーケティンググループ マネージャー 宮原利温氏

DDFAを採用した理由のひとつもここにある。「このサイズ感でアナログアンプのクオリティに仕上げることが大命題」(宮原氏)であり、フルデジタル化が可能なDDFAだからこそという部分も大きい。「風穴がないシンプルなデザインを狙った。アナログアンプの場合、このデザインでは放熱の問題が出てくる」(山内氏)という。

デノン独自の高音質化技術「Advanced AL32 Processing」も、本機の音作りには欠かせない要素だ。16/24bitのデジタル信号を32bitにアップサンプリングすることで、よりきめ細かいアナログ波形的な階調表現を実現する技術であり、本機では「つねにオンの状態」(宮原氏)であるという。DDFAとAdvanced AL32 Processingのコンビネーションが、本機の音作りにおける骨格を成しているといえるだろう。

その32bitにアップサンプリングされた音をDDFAが35bitに拡張することも、本機の音づくりにおけるポイントだ。「32bitよりも35bitのほうが、より滑らかで細かい階調の音を再現できる。マスタークロックが108MHzと高速なことが、この処理を可能にしている」(大島氏)。

D&Mホールディングス 技師 山内慎一氏

しかし、デジタルアンプを採用するとネイティブDSD再生ができないという、セールス上悩ましい事態も生じてしまう(デジタルアンプはDSDの1bit信号を通さない)。「ネイティブDSD再生」という言葉がオーディオファンに響くからだ。

この点については、「デジタルアンプを使用する都合上、音声信号はPCM変換しなければならない。しかし、その信号はDDFAに直接伝えられ、ダイレクトにスピーカーを駆動できる利点がある」(山内氏)という。「DDFAにかぎらず世にあるデジタルアンプで1bitデータを扱おうとすると、デジタルアンプ前段でDA変換した後にAD変換しなければならず音質特性上の優位性はなく、コンセプト的にもぶれる」(大島氏)、「Advanced AL32 Processingの働きによりアナログ的なDSDの特徴も再現できる」(宮原氏)ということもあり、フルデジタルというコンセプトのもと設計された本機の場合、PCM変換はDSD再生におけるひとつのアプローチと解釈することが適当だろう。

CSR コネクティビティ・グループ マネージャー 大島勉氏