拡充

今年9月、iPhoneのSIMフリー端末が日本のApple Storeで公式に販売開始されたことで、発売日に店頭で大きな混乱が起きた。ずいぶん前のようにも思えるが、わずか3カ月前だ。しかしこの3カ月で、スマートフォン市場におけるMVNOの存在感が急速に増した。OCNとかBIGLOBEとかIIJとかいう名前が並ぶのを見ると、10年くらい前のブロードバンド普及期に見られたプロバイダ戦争を思い出す。あの時ほどの強引さはないにせよ、今回もヤフーがひと役買っているところになんとなく既視感を覚えたりもする。

筆者の身近でも、長年iPhoneを使っていた人が通信料節約のために夫婦そろってSIMロックフリーアンドロイド+MVNOに乗り換えた。手続きから10日経ってもSIMが届かないというから、申し込みの混雑ぶりが伺える。スマートフォンを使いながらも料金に不満を持っていた人がいかに多かったかが露呈した格好だ。日本国内ではこれまでメジャーでなかったブランドのスマートフォンが、機能・スペックという従来の基準以外の理由で売れていることも、これからのキャリアの方向性に影響を与えるだろう。

料金の問題よりも、今のキャリアへの不信感を理由にSIMロックフリーのiPhoneを購入し、データ専用SIMを購入して使っている人もいる。販売店の不要なオプションサービス攻勢や、音声通話に有利なプランの押し付けなど、とても利用者のためを思って行っているとは思えない。政策でなく政局のための政治に巻き込まれているようなものだ。MVNOはしがらみから脱却して気持ち良くスマートフォンを使いたい人の選択肢にもなっている。

また量販店の店先では、SIMを購入し説明書を見ながら自分のスマートフォンに入れている外国人旅行客の姿をよく目にするようになった。逆に日本から海外に行く機会が多い人にとっても、日本国内でSIMフリー端末が入手しやすく事業者の選択肢も多いことは歓迎すべきことだ。MVNOの増加がもたらした利用形態の拡充が、多くの人の不満を解消し、利便性を向上させる。サービス内容の拡充については課題があろうが、スマートフォン市場の規模全体を拡げる動きにつながるだろう。

「拡大」「拡張」「拡充」ということで、2014年のスマートフォン(主にiPhoneまわり)を「拡」という文字で振り返ってみた。昨年の今頃、この状態を予想できなかったように、きっと来年の今頃もまったく予想できない状態になっているのだろう。とにかく、手元にある端末を適正な料金で無事に使い続けていられることを願いたい。まずはよいお年を。