計装アンプとオペアンプの仕様

すでに説明したように、オペアンプと計装アンプは同類であり、オペアンプを使って計装アンプを構成できます。この類似性により、オペアンプと計装アンプの両方に共通で使われる仕様値がいくつかあります。しかし、計装アンプデバイスだけが備える機能に関しては計装アンプ専用の仕様値があります。オペアンプと計装アンプに共通する仕様値の中で、双方にとって重要な値は、入力バイアス電流と入力オフセット電圧/オフセット電圧ドリフトです。

入力バイアス電流とは、入力トランジスタをバイアスするためにアンプ入力に流す必要がある電流値です。この電流値はアンプ入力回路のアーキテクチャに応じてμA~pAレベルで大きく変化します。このパラメータは、高インピーダンスセンサをアンプ入力に接続する場合に極めて重要です。これは、高インピーダンスセンサにバイアス電流が流れる事で電圧降下が発生し、結果として電圧エラーが生じるためです。オペアンプを使う場合でも計装アンプを使う場合でも、バイアス電流は回路の総エラーバジェットに大きく影響します。

入力オフセット電圧も、オペアンプと計装アンプの両方に共通する重要な仕様値です。その名が示す通り、この仕様値はアンプの反転および非反転入力間の電圧差を表します。この電圧オフセットはアンプの回路方式によって決まり、その大きさはμV~mVレベルです。他の電気部品同様、アンプのふるまいも温度によって変化します。これはアンプの電圧オフセットにも当てはまります。電圧オフセットはエラーの原因であり、オフセットは温度によって変化するため、このエラーも温度の影響を受けます。高精度アンプであっても温度ドリフトには敏感です。このエラーは低ドリフトアンプ(ゼロドリフト回路方式を採用したアンプなど)を選択するか、周期的にシステム校正を実行してオフセットとドリフトを除去する事によって最小限に抑える事ができます。

標準的なオペアンプのデータシートには示されない、計装アンプに特有の仕様値があります。それらはゲインエラーと非線形性です。一般的にゲインエラーは、そのアンプの理想的なゲイン計算式からの最大偏差(%)として示されます。抵抗回路内の抵抗値と温度係数のバラつきはすべてゲインエラーの原因です。非線形性もアンプのゲイン特性を表す仕様値です。この値は、入出力間の理想的な伝達関数(直線)からの最大偏差を表します。例えば、計装アンプのゲインを10に設定した場合、100mVのDC入力に対する出力は1Vです。入力が500mVまで増加した場合の出力は5Vです。これらの2点を結んだ直線がアンプの入出力間伝達関数を表します。非線形性の仕様値は、この直線からの偏差を表します。

応用例:ホイートストンブリッジ

既述の通り、計装アンプは差動ゲインと共に良好なコモンモード除去比を提供します。そのため計装アンプは、ホイートストンブリッジで構成されたセンサ(歪みゲージなど)向けに非常によく用いられます。歪みゲージアプリケーション向けのホイートストンブリッジは、四角形の各辺に配置された4個の抵抗性素子(歪みゲージまたは固定抵抗)によって構成されます。励起電圧をブリッジの対角を成す2点間に印加し、別の2点間の電圧を計測します。クォータブリッジは、可変抵抗素子(歪みゲージ)を1つだけ含みます。ハーフブリッジは2個の可変抵抗素子を含み、フルブリッジは4個の素子のすべてに可変抵抗素子(歪みゲージ)を使います。歪みゲージの数を増やすと感度が向上します。条件がすべて同じであれば、クォータブリッジに対してハーフブリッジの感度は2倍であり、フルブリッジの感度は4倍です。

図4:ホイートストンブリッジと計装アンプの組み合わせ

この例では、ホイートストンブリッジをDC電圧源によって励起します。VDDを5Vとした場合、ブリッジのセンタータップには約2.5VのDCコモンモード電圧が生じます。歪みゲージに力が加わると抵抗値が変化し、センタータップ間に微弱な電圧差が生じます。この電圧変化はコモンモード電圧に比べて非常に小さいため(通常は10mVレベル)、この微弱な差動電圧を増幅する必要があります。計装アンプは必要な増幅率を提供するだけでなく、比較的高いコモンモード信号(さらに両方の入力信号に共通のノイズ)を除去できるため、このような用途には理想的です。単純な増幅段として構成したオペアンプはコモンモード信号を(ユニティゲインで)出力へ通過させるため、出力信号のダイナミックレンジが減少する事に注意してください。

まとめ

システム設計の領域において、「計装」という用語はいくつか異なる意味で使われています。歴史的には、この用語は応用(通常は物理現象の計測または記録)を指す意味で使われました。このため、そのような応用向けに設計されたオペアンプが「計装アンプ」と呼ばれるようになりました。さらに、オペアンプを使って計装アンプを構成できるという事も、混乱を招く原因となっています。

実際には、オペアンプと計装アンプは、それぞれ異なる機能を目的に設計された大きく異なるデバイスです。計装アンプは、差動増幅とコモンモード除去だけを目的として使われる特別なアンプであると言えます。本文で述べたように、通常のオペアンプを使って計装アンプと同じ機能を備えた回路を設計する事は可能です。しかし通常は、モノリシック計装アンプを使った方が大幅に高い性能と信頼性を達成できます。

著者プロフィール

Kevin Tretter
Microchip Technology
Principal Product Marketing Engineer
Analog and Interface Products Division