東京糸井重里事務所は、Webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の多目的スペース「HOBONICHIのTOBICHI」にて、新創刊のライフスタイル雑誌「つるとはな」1誌のみを扱う期間限定ショップ「ひとつの雑誌だけを売る本屋さん」をオープンする。開店日時は10月22日~26日 11:00~20:00。本レポートでは、オープンに先がけて行われた創刊記者発表会で語られた内容をお届けする。

左から、「つるとはな」編集制作・松家仁之氏、編集長・岡戸絹枝氏

「つるとはな」は、マガジンハウスのライフスタイル雑誌「ku:nel」創刊を手がけた岡戸絹枝氏が編集長を務め、新潮社で「考える人」と「芸術新潮」の編集長を兼任していた松家仁之氏が編集制作を務めるライフスタイル雑誌。両名が出版社を退職し、フリーランスになったこと、そしてジャンルは違えど"人に話を聞いて作る雑誌"を手がけていたことなどからタッグを組み、そこに元日本コカ・コーラヴァイスプレジデントの佐藤真氏が加わって、雑誌と同名の会社を立ち上げて創刊に至った。

誌名は、岡戸氏と共に「ku:nel」の創刊を手がけた編集者・ 鈴木るみこ氏の祖母、そして岡戸氏の祖母の名前から取ったのだという。アートディレクターは、「ku:nel」を手がけた有山達也氏が担当している。創刊号に関しては、雑誌広告は三越伊勢丹1社のみで、「この雑誌でしか読めない広告」を実現するため、宣伝部と協業して作り込んだコンテンツが掲載されるとのこと。出版取次は介さず、同社が直接やりとりした書店やAmazonなどのWeb流通、そして「ほぼ日刊イトイ新聞」での販売を実施する。

誌名の由来、そして「人生の先輩に聞く」というサブコピーから分かるように、創刊メンバーから見て"先輩"と呼べるような年代の人々にインタビューを行い、その生き方を描く記事を掲載する。創刊号にインタビューが掲載されている料理家のホルトハウス房子氏は80歳、パートナーのレイモンド氏は95歳だ。このほか、イタリア文学者・須賀敦子氏の生前友人に宛てた手紙を発見後初めて公開するなど、文学研究者やファンにとって大きなトピックも用意されている。

「つるとはな」表紙

須賀敦子氏が友人夫妻に宛てたはがき(1976年)

立ち位置としてはいわゆる「シニア層」ターゲットの雑誌であるように思われるが、マーケティング的な観点から"シニア層の関心事"と設定されているような、老後の預金や健康などを扱うものではないという。「つるとはな」という雑誌について、松家氏は「編集長・岡戸絹枝自身が抱く、"これからどうやって年を取っていけばいいのだろう"という関心から生まれたもの」なのだと解説した。

この出版不況にあって新たに雑誌を創刊することに対して、松家氏は「紙のメディアにはまだ役割があります。少なくとも今後20~30年はあると思いますし、紙のメディアの方が頑張れば、50年にも及ぶかと思います。電源がなくても読めますし、紙が持つ質感やビジュアル、ぱらぱらと「めくる」マテリアルとしての魅力は失われていません」と断言。「出版界の人間が(紙のメディアを)過小評価し、自信を失いすぎている」とも付け加えた上で、「もっと面白いコンテンツを作ることで、読者を動かすことはできるという確信のようなものはあります」と語った。紙の可能性を語る一方、Webの力にも期待しているということで、同社のサイトには書店からの問い合わせ窓口を設置。販路を広げながら、ゆくゆくは書籍を発行する予定もあるとコメントした。

なお、期間限定ショップでは、10月24日に岡戸氏と松家氏、そして「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰の糸井重里氏の3名によるトークイベントを開催。一般入場はすでに締め切られているが、「ほぼ日刊イトイ新聞」上にてテキスト中継が行われるという。ショップに関する詳細は「TOBICHI」のWebページにて確認してほしい。