日本マイクロソフトは1日、日本市場向けオフィススイート「Office」の新製品を発表する「New Office Press Briefing」を開催。プレインストール版とサブスクリプション制度を融合させた新しい提供形態などを明らかにした。

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かつて日本マイクロソフトが、日本国内・個人向けOffice 365を初めて公にしたのは、2014年7月に開催した新年度経営方針記者会見だった。日本マイクロソフト 代表執行役 社長の樋口泰行氏は、大手企業や教育機関などがOffice 365を採用しつつあることをアピールしながら、「日本市場に最適化した『Office 365 for Consumer』を2014年内にリリースする」と発言。担当役員であるコンシューマー&パートナーグループ オフィスプレインストール事業統括本部長の宗像淳氏も「国内はプレインストール版Officeが多いため、パートナーと培ってきた関係性を維持しつつ、Office 365 for Consumerの発売を目指す」と語っていた。

2014年7月の新年度経営方針記者会見で紹介されたもの。同時に配布した紙資料には含まなかったのは、サプライズ性を高めたかったのだろう

それから3カ月。

10月1日に「New Office Press Briefing」と題した記者会見を行い、日本市場向けOffice 365を発表した。概要を説明する前に、まずはOffice 365の立ち位置から解説しよう。

Office 365が発表されたのは2010年10月。デスクトップアプリのMicrosoft Officeスイートを月額課金で使用可能にするエディションと、Exchange ServerやSharePoint Serverなどのサーバープランも同時に提供するエディションが複雑に絡み合っているため、正直分かりにくい。今回発表されたのは、米国のMicrosoft本社が提供している個人向けOffice 365とは異なり、日本独自の構成を採用した。

日本市場に最適化したOffice 365

日本国内での名称は「Office PremiumプラスOffice 365サービス」(以下、Office Premium)」と、「Office 365 Solo」である。米国とはまったく異なる日本独自のエディションなので、はじめに概要を紹介しておく。今回の新Officeは、従来と提供形態が変わっただけで、少なくとも発表時点では機能的な強化点はないとのことだ(現行のOffice 2013と同等)。

Office Premiumプラス Office 365サービス

デスクトップアプリ版のインストール(永続的)
・最新版のOfficeにアップデート可能
3つのエディション
・Office Personal PremiumプラスOffice 365サービス
・Office Home&Business PremiumプラスOffice 365サービス
・Office Professional PremiumプラスOffice 365サービス
Office 365サービス(1年間)
・2年目以降は「Office 365サービスOffice Premium 搭載パソコン専用」ライセンス(5,800円)の購入で継続可能
・OneDriveの容量を1TB(テラバイト)追加
・Office Mobile for iPhone/Office Mobile for Androidの利用ライセンス(台数無制限)
・iPad for Office(2台まで)の利用ライセンス
・Skype 60分無料通話(公衆回線向け)/月
・無償サポートデスク

Office 365 Solo

PC/Macのデスクトップアプリ版を1年間使用可能
・その間のアップデーは無償提供
Office 365サービス(1年間)
・同上
希望小売価格は11,800円

Office Premiumは「永続的に使用できるデスクトップアプリ+1年間のOffice 365サブスクリプション(購読)」。Office 365 Solo は「デスクトップアプリ+Office 365サブスクリプション、いずれも1年間」、と述べると分かりやすいだろう。今までのパッケージ版を使ってきたユーザーは違和感を覚えるかもしれないが、プレインストール版ユーザーの場合、1年間のOffice 365サービスが付いてくる。

プレインストール向けサービス「Office Premium」の概要

単独購入も可能な「Office 365 Solo」の概要

細かい計算は飛ばして、OneDriveのディスク容量プランを1TB追加すると22,800円/年、Skypeの通常回線通話料金は1時間135.6円のため、年間では約1,627円の無料使用権が付属する仕組みだ。(2年目以降は有料と言いつつも)お得なサービスと言えるだろう。

米国のOffice 365と構成が異なる理由として、日本マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口泰行氏は「(同社の調査によれば)日本市場は約94パーセントのPCにOfficeがインストールされている。だが、米国のOfficeユーザーは30パーセント以上がサブスクリプションを選択し、毎四半期で100万人以上が移行中。そして米国本社との連携や日本市場を踏まえた上で、独自の構成を用意した」と述べた。

日本マイクロソフト 代表執行役 社長の樋口泰行氏。後述するOffice for iPadのデモンストレーション後に「これだけ長い時間、Apple製品を使ったデモンストレーションは初めて」と会場の笑いを誘った

日本および海外におけるデスクトップアプリ版Office/Office 365に対するニーズは異なるという

なお、Office Premiumのエディション構成は下記のとおり。Office 365 SoloのPC版はOffice Personal Premiumと同等の構成となり、Mac版はOffice for Mac 2011と同じWord/Excel/PowerPoint/Outlookが含まれる。ちょうどOffice Personal PremiumとOffice Home&Business Premiumの中間に位置する内容だ。

「Office 365 Home」の最大ユーザーは5人だが、Office 365 Soloは2台に制限されている。この点について質問があがると、日本マイクロソフトの担当者は「日本の場合、5台も使うユーザーは少ない。1人が使うデバイスとして2台が最適と考えている」と回答した。

デスクトップアプリ版Officeの構成

米MicrosoftのCEOも登壇。エコシステムをアピール

今回の発表会はOffice 365が主役だが、もう1つの目玉がSatya Nadella氏の訪日だ。筆者の記憶が確かなら、同氏が訪日し、メディアに登場したのは今回が初めてである。登壇したNadella氏は、CEO就任以来掲げている「モバイルファースト、クラウドファースト」について語った。その内容は過去の寄稿記事と重複するため割愛するが、Nadella氏は「日本はOfficeがもっとも活用されている国の1つ」と評価しつつ、「Office for iPad」の日本語版を2014年内にリリースすることを明らかにした。

Microsoft CEOのSatya Nadella氏も訪日し、会場でスピーチを行った

Nadella氏のスピーチで発表した4つの製品。Office PremiumプレインストールモデルのSurfaceやOEM版PC、Office for iPadの日本語版リリースも発表された

会場ではOffice for iPadのデモンストレーションも披露。基本的には2014年3月にリリースしたものと変わらないが、日本語版UIや利用シナリオに応じて厳選したリボンを表示する仕組みをアピールしていた。なお、文書ファイルの閲覧は無料だが、編集時はOffice Premiere/Office 365 Soloのサブスクリプションライセンスが必要となる点も同じである。

Office for iPadのデモを見せてくれたのは、日本マイクロソフト Officeビジネス本部 エグゼクティブ プロダクト マネージャの松田誠氏(写真左)。写真右はOffice for iPadのデモ。Excel for iPadのグラフをタッチするとリボンの「グラフ」タブが現れるように、iPad独自のUIを披露した

Word for iPadはタッチUIに対応し、図の拡大縮小や移動も簡単に行えるという

PowerPoint for iPadは外部ディスプレイによるプレゼンテーションで使用できるように、スピーチ内容やスライド画像を表示するモードを用意した

Nadella氏がスピーチした「モバイルファースト、クラウドファースト」は文字どおり、iPadやWindowsタブレット、およびクラウドとインフラが欠かせない。マルチプラットフォーム化を目指すMicrosoftにとって、サブスクリプションタイプのOffice 365とOffice for iPadの存在は大きいはず。そのため、今月(2014年10月)の17日とかなり早いタイミングでリリースするのだろう。

なお、日本マイクロソフトのSurfaceや各社Windows PC/タブレットのプレインストール版Officeも、同日から順次Office Premiumに切り替わる。樋口氏やNadella氏が言うように、Officeのシェア率が高い日本国内において、Office Premium/Office 365 Soloが浸透するか否か…。これは「最初から全部入りが好まれる」日本という地域で、サブスクリプションに対する理解度をいかに高められるかと、そのための継続的かつ丁寧な説明が求められる。

阿久津良和(Cactus)