新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と国立がん研究センター(NCC)、東レは8月18日、3者共同で記者会見を開き、6月11日に発表した「13種類のがんを1回の採血で発見できる次世代診断システムの開発プロジェクト」に関する説明を行った。

(左から)新エネルギー・産業技術総合開発機構 副理事長の倉田健児氏、国立がん研究センター 理事長の堀田知光氏、東レ 専任理事 先端融合研究所長の米原徹氏

国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野分野長の落谷孝広氏

同プロジェクトは、乳がんや大腸がんなど13種類のがんや認知症の早期発見マーカーとなる「体液中マイクロRNA測定技術基盤」の開発と「研究成果の実用化による新しい医療産業の育成」を目指し、マイクロRNAの研究を進めるNCC研究所 分子細胞治療研究分野分野長 落谷孝広氏を研究開発責任者に迎え、NCCの研究部門と臨床部門、東レをはじめとする9機関の連携、NCCと8大学の共同実施によって行われる。

がん早期発見マーカーの鍵となる「マイクロRNA」とは、血液や唾液、尿などの体液に含まれる22塩基程度の小さなRNAで、近年の研究から「がんなどの疾患にともない、患者の血液中でマイクロRNAの種類や量が変動すること」が報告されているほか、抗がん剤に対する感受性の変化や転移、がんの消失など病態の変化に相関することも知られているため、新たな疾患マーカーとして活用が期待されているという。

同プロジェクトでは、患者体液中マイクロRNAの網羅的解析と疾患横断的に解析可能なマイクロRNA発現データベースの構築、マイクロRNA診断マーカーとマイクロRNA検査・診断技術の開発、臨床現場での使用に向けた検査システムの開発を実施する予定となる。

マイクロRNAの網羅的解析では、NCCおよび国立長寿医療研究センター(NCGG)のバイオバンクに保存されている数十万検体の血清から、13種類のがんやアルツハイマー病などの認知症についてのマイクロRNA発現プロファイルの取得を行う。対象の13種類のがんは、胃がんや食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫で、「これらは『日本人に発症例が多いこと』と『NCCが研究に注力しているもの』という点で選出した」という。種類ごと5000検体以上、計6万5000の症例を対象に、約2500種のマイクロRNAの網羅的解析を目指す。

マイクロRNA発現データベースの構築では、東レが開発した高感度DNAチップと、東レとNCCが共同開発したマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用し、マイクロRNAデータと臨床情報の格納と横断的な解析を可能にするデータベース構築を行う。また、同プロジェクトの成果を製薬企業や診断薬企業、診断機器企業などに橋渡しすることで、プロジェクト成果の実用化を推進するユーザーフォーラムを設立。同フォーラム参画企業がこのデータベースにアクセスできる環境を構築するという。

同データベースは、複数の疾患の間での特異性を得ることを目的とした「複数マーカーを組み合わせた診断用アルゴリズム」の作成や、「診断用マイクロRNAマーカーが疾患や病態と関連するメカニズム」の解明に活用されるほか、臨床現場での使用に向けた自動検査システムの開発に活かされる予定だ。

新エネルギー・産業技術総合開発機構 副理事長を務める倉田健児氏

会見に出席した新エネルギー・産業技術総合開発機構 副理事長を務める倉田健児氏は、同プロジェクトの組成に関し、「実際の医療現場に活用可能な研究成果をいかにあげていくかや、成果が日本の産業内で利用・普及されていくか、そのために必要な医療機関・企業の参加・連携をいかに図るかに重点をおいた」とし、同プロジェクトが生活者だけでなく、日本の医療産業へのイノベーションへも貢献できることを示唆した。

また、同プロジェクトの研究開発責任者である落谷氏は、「研究が先行している乳がんから着手し、(プロジェクトの実施期間は5年とされているが)可能な限り早い段階で、成果を報告したい」と意気込みを述べた。