CANリピータの導入

図2に示すように、論理バスを2つの物理的な部分に分割し、どちらかのセクションが使用されていない場合はそのセクション全体への電力供給を停止する方法で、貴重な電力を節約できます。CANバスに接続されているモジュールのいずれかに、双方向のリピータを導入すればこのような分割を実現できます。

図3 CANリピータを内蔵した1つのモジュールを追加するとバスを2つのブランチに分割可能

通常のモジュールには、バスに接続されている1個のCANトランシーバがあり、物理的なCAN信号を、モジュールのマイクロコントローラで処理できるデジタル信号に変換します。一般的な用例では、バスに接続されているすべてのモジュールがこの形式を採用しています。CANリピータを内蔵した1つのモジュールを追加すると、バスを物理的に2つのドメインに分離できるポイントが作成されます。

図3に示すように、CANリピータはスタンドアロン・トランシーバに似た方法で、マイクロコントローラとのインタフェースとして機能します。デバイス内部では、ポートAに印加されたすべての信号はポートBに転送され、ポートBに印加されたすべての信号はポートAに転送されます。CANバスの信号は、マイクロコントローラ内で解釈されます。CANバスのデータは、リピータ・チップ内でリピートされます。Go-to-Sleep(スリープ状態に移行)コマンドを受信すると、これらのポート間の接続は開放され、ポートB側にあるネットワーク部分は実質的に切り離されます。切り離された分岐側にあるすべてのノードは、消費電力が非常に小さいスリープ状態に移行することができます。

図4 CANリピータ・モジュールの内部アーキテクチャ

ISO11898-2またはISO11898-5の標準トランシーバを使用して、1つのノードを除くすべてのノードを実装できるため、このアプローチは簡潔でコスト効果が高く、ソフトウェア側の対応も必要ありません。必要なのは、1個のリピータ・デバイスだけです。この手法を使用する場合は、ケーブルの長さ、伝送速度、リピータ・デバイスに起因する追加の遅延時間を考慮に入れて全体のタイミングを計算することが重要です。

この方法でバスを分割すると、配線がグランドまたはバッテリに短絡するなどの障害に対する自動車の対処能力も向上します。必要に応じて外部バス・リピータを挿入することで、「ハード」バス障害と呼ばれる、このような問題をさらに限定することもできます。電磁放射の増加や熱の問題のような「ソフト」エラーが、ネットワーク全体に影響を及ぼす事態を防止することも可能です

結論

排ガスと燃費に関する目標が厳しくなっているため、今日の自動車メーカーは、自動車に搭載するすべてのシステムのエネルギー効率を最大限に高めることに注力するようになっています。自動車購入者のニーズさらに地球環境に関するニーズを満たすために、エンジン停止状態から全システム稼働状態まで、あらゆる使用モードでの消費電力をより効率的に管理するために、新しいICの開発を積極的に行うことがますます重要になっています。

著者紹介

JanPolfliet
ON Semiconductor ワールドワイドオートモーティブ製品 ASSP担当マネージャ
30年以上にわたり、プロセスエンジニアリングから製造マネージャまで半導体のエンジニアリングに携わり、現在はプロダクト・マーケティング・マネージャーに就任している。2010年に同社に入社する以前は、Alcatel Microelectronicsでプロダクト・マーケティング・マネージャーを務めていた。マーケティングマネージャーとして、DECT、GSM、Bluetoothなど純粋なコンシューマ製品から車載/産業市場向け車載ネットワーク(IVN)トランシーバやLEDドライバなどのより特定されたASSP製品までASSP製品の定義、製造、プロモーションを手掛けてきた。現在、ON SemiconductorのオートモーティブASSP製品のマネージャとして任務を遂行している。

Wim Van de Maele
ON Semiconductor オートモーティブ製品 ASSP担当マーケティング
2001年に同社入社。製品開発部門のさまざまな役職を経験した後、マーケティングチームに参加。現在、IVNトランシーバおよびシステム・ベース・チップならびにリアライティングおよびインテリア照明向けのLED製品に携わっている。

Roman Buzas
ON Semiconductor アプリケーション・エンジニアリング・マネージャ
産業および車載ASICの設計エンジニアとして1996年にAlcatel Microelectronicsに入社(後にAMI Semiconductorに買収)。2001年以降は、数々のオートモーティブチップのテクニカル設計リーダーを歴任してきた。
2005年からIVNグループの設計チームリーダーに着任。グループでは主にIVN ASSPチップ(CAN、LIN、FlexRayトランシーバ、SBC)を設計している。2010年からはアプリケーションマネージャに就任。IVN/SBCチップの技術にフォーカスしながら、チームを率いてインテリアLED照明およびドア・ドライバ・チップに取り組んでいる。