「NHK技研公開 2014」が、5月29日~6月1日にNHK放送技術研究所で開催された。今回の技研公開は、2020年に東京五輪が開催されることが決定して初めての開催であり、これに向けて実用化が期待されるスーパーハイビジョン(8K:7680×4320画素)に関連する技術が多数紹介された。

「NHK技研公開 2014」の正面入口

入口付近には、五輪に関連するものが目立ち、1964年の東京五輪に使用された機材などが展示された。また、2020年に8K映像を視聴する一般家庭のリビングモデルが紹介された。

1964年の東京五輪で活躍した2IO分離輝度方式カラーカメラ。当時のカラーカメラより画質が良く、白黒TVでもはっきりとした画質で見ることができたという

2020年のリビングには超薄型・軽量8Kディスプレイがある

ハイブリッドキャストが8Kに対応すると、大画面・高精細を生かした表示が可能となる。例えば、より細かな文字のコンテンツまでくっきりと映し出すことができる。2016年の試験放送に向けて、技術仕様の標準化と放送システムの研究・開発が進められている。

8K対応の85型液晶ディスプレイに映し出されたハイブリッドキャスト。ゴルフ中継を想定したもので、中央に本放送、その周辺に個別コンテンツが表示されている

ハイブリッドキャストの個別コンテンツ。各選手がどのホールでプレイしているのかなど、詳細な情報が確認できる

スマートフォンやタブレットで操作することも可能。ゲームなどのおまけ機能も付与できる

8Kカメラも進化している。初代のカメラはレンズを含めて80kgの重量があった。今回、3300万画素の単板カラーCMOSイメージセンサを搭載した、超小型120Hz 8Kカメラを開発し、サイズ15.1cm×12.5cm×13.5cm、重量2kgを実現している。

2002年に開発された初代8Kカメラ

最新の小型・軽量8Kカメラヘッド

CCU(信号処理装置)。8Kカメラヘッドからの映像信号を処理して、8K 120Hzの映像をディスプレイに送ることができる。ブースでは、4Kディスプレイに映し出すデモを行っていた

8K小型記録装置では、記録制御部とメモリ部を分離することで、メモリパック単体での着脱を可能にした。8K用固体メモリパックは、書き込み速度の変動を小さくする記録制御と、大きな記録ブロックサイズで順次記録する効率的な書き込みにより高速記録を実現している。

8K小型記録装置の製品群。(左)移動用カメラ、(中央)移動用記録装置、(右)メモリパック。メモリパックは、サイズが205mm×118mm×36mm、重量が400g、容量が2TB、最高記録速度が12Gbps、記録時間が45分、インタフェース速度が40Gbps。2ビットセルのNAND型フラッシュメモリが使用されている

8K再生装置。映像が収められたメモリパックを差し込むと、映像データを転送できる

これまでフル解像度の8K映像を撮影するためには、RGBに対応した3枚のイメージセンサと色分解プリズムが必要で、カメラの小型化が困難だった。今回発表された1億3300万画素イメージセンサは、1枚の撮像素子でフル解像度の8K映像を撮影できる。また、撮像面の対角が35mmフルサイズとほぼ同じとなるように設計されており、種類が豊富な市販のスチールカメラ用レンズを利用できる。

1億3300万画素イメージセンサ

同イメージセンサによる撮像実験デモ

市販のカメラと組み合わせて8K/4K/2K映像をリアルタイムに同時出力するベースバンドプロセッサユニットや、8K単板式カメラ用レンズも展示された。

単板式カメラ用レンズは、PLマウントで市販のカメラにも適用可能

ベースバンドプロセッサユニットは、SRメモリカードスロットを搭載し、記録されたRAWデータからの再生が可能。また、4K入力信号から8K信号へのアップコンバート、および2K信号へダウンコンバートする機能も有する

この他、会場には8K映像と22.2chサラウンドを組み合わせたコンテンツが体験できるプレミアムシートのコーナーも設けられていた。

プレミアムシート

22.2chサラウンドのヘッドフォンプロセッサ

新技術では、低い電圧で動作が可能な光電変換膜を積層した固体撮像デバイスが紹介された。光開口率を100%にできる構造と、光電変換膜に薄くても入ってきた光をすべて吸収できる結晶セレンを採用することで、90%以上の高い量子効率が期待できるという。また、薄膜化により結晶セレンの粒の大きさを1画素のサイズより小さくしたことで、撮影画像のざらつきを低減している。

結晶セレンを用いた光電変換膜積層型固体撮像デバイス。(左)試作デバイス、(中央)アモルファスセレン膜、(右)結晶セレン膜

次世代ディスプレイ技術では、フレキシブル有機ELが展示された。有機EL素子の長寿命化に向けて、酸素や水分の影響を受けにくい電子注入材料を開発したという。さらに、同材料を積層して成膜できるよう、有機EL素子の構造を陽極と陰極の位置を入れ替えた逆構造を新たに提案した。

8型フレキシブル有機ELディスプレイは、解像度が640×480画素、画素ピッチが255μm、フレーム周波数が60Hz。

通常構造と逆構造の有機EL素子を封止フィルムなしで点灯させた比較。通常構造が劣化しているのに対し、逆構造は劣化していない

ホログラフィによる3D-TVの実現に向けて、アクティブマトリクス駆動方式のスピン注入型空間光変調器が紹介された。同デバイスは、トンネル磁気抵抗効果を用いており、光変調素子を画素とする。各画素に流す電流方向によって光変調素子の磁化方向を制御し、スピン注入磁化反転で動作する。

アクティブマトリクス駆動方式スピン注入型空間光変調器の拡大写真

磁気固定パターンでのホログラフィ表示デモ