生徒たちも自発的に、テクノロジーをいかに学びに生かすかを考えている

生徒たちが議論を重ねて、テクノロジー利用におけるガイダンスを製作したポスター。生徒手帳の2ページにわたってびっしりと書かれた条文は禁止や注意事項が書かれたものだったそうだが、このポスターはテクノロジーを活かすポジティブな要素を表現している

コルベの校長、Robyn Miller氏は、iPadを持った生徒が授業に集中するかどうかについて「教室内でのマネジメントの問題」と指摘した上で、テクノロジーの役割が生徒の学び方に自由度を与えるものだと位置づけている。同時に、テクノロジーとの関わり方については「家庭でのマネジメント」の重要性も指摘する。これについて、萩原氏は次のように話す。

「テクノロジーへの熱中と勉学との両立は、家庭内で上手くいかなければ、どこでも上手くいかないと考えている。『なぜテクノロジーを取り上げないのだ?』と学校に要望が寄せられることもあるが、それは親が子どもに対して、テクノロジーとどのように関わるべきかがわからないことの表れでもある。そのことをずばっと父兄に伝えて、どのようにすればよいか一緒に考え始める」(萩原氏)

また生徒たちも、自発的にテクノロジーとの関わり方について考えるようになったという。生徒手帳には、インターネットやコミュニケーションに関するルールが2ページにわたってびっしりと書いてあったが、「こんなものはなくしてしまおう」と萩原氏が呼びかけ、生徒たちが議論を行って、1枚のポスターに仕上げた。

そのポスターを見ると、これまでルールとして載せられてきた内容は地面の土の中に小さく書かれ、そこから生えている花には、iPadやインターネットによって目指すべき学習の姿が掲げられていた。非常に驚かされるのは、ルールを守ることが重要なのではなく、新しい学び方を快適に安全に得るために、そのルールがある、ということが見事に表現されていた点。

生徒たちはこのポスターを仕上げるために、休みの日も学校に集まってきて、議論を重ねてきたそうだ。この変化は、iPadの導入から教師が今までのように黒板の前に立って一方的に授業を行うスタイルが変化したことに端を発する、と萩原氏は分析する。

「生徒たちは『そうじゃないんだ』と気づいたのではないだろうか。教師と生徒は、一緒に考えて、話し合って、時に道筋をつけてもらいながら答えを見つけていくのが学びなんだ、という意識に変わり、授業の仕組みもこうした活動をサポートするものに変わった。そういう意識とシステムがあれば、生徒は自立的に伸びていく。

また、生徒が自発的に伸びていく姿を、他の教師たちにもいくつも見せていくことで、学校全体としての改革を喚起していくことにつながった。テクノロジーが入ったことをきっかけにして、学校の在り方、教室のデザイン、学習の仕組みを考え直すきっかけになった。それを具現化していったことが、コルベの方法論であり、誇りでもある」(萩原氏)

前編・中編で、コルベのテクノロジー導入から始まった教育の変化に付いてみてきた。コルベ取材の最終回となる後編では、実際の授業を見学させてもらった風景をお伝えしたいと思う。

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を追求している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura