軽快動作のクイックショットカバーに磁力制御の果てしない苦労
クイックショットカバーについては、内田宏幸氏がその開発秘話を明かしてくれた。クイックショットカバーは、オプション扱いながらThinkPad 8の特徴的な機能のひとつであり、ThinkPad 8を選ぶほとんどのユーザーが同時購入していると言う。カバーを裏面に回した際、カメラ位置に相当するフラップ(レノボ社内ではドックイヤー[犬の耳]と呼んでいるとか)をパタッと開けば、自動でカメラ機能が立ち上がり、撮影準備完了となるという機能だ。PCのWebカメラとは異なり、タブレットでは撮影の機会も多くなる。しかし、毎回カメラアプリを起動するのでは撮影までに時間も手間もかかる。そこを一瞬で実現してしまうのがクイックショットカバーだ。
機能的に見ると、アプリ次第で簡単に実現できてしまいそうにも見える。ドックイヤーの開閉も、今のセンサー技術なら簡単にできてしまいそうにも思われる。しかし、実際にはそう簡単ではなかった。
クイックショットカバーのカメラの動作には、カバー側に埋め込まれた磁石と、タブレット本体側に備える2個の磁気センサーを組み合わせた、少し複雑な仕組みを用いている。各磁気センサーは、カバー側の磁石の向きを検知しており、センサーのひとつは、カバーの開閉状態、つまりカバーが液晶面にあるのか裏面にある状態なのかを検知するためのもの。もうひとつのセンサーはドックイヤー部分の開閉を検知するためのものだ。
ドックイヤー用の磁気センサーから得たカバーの開閉状態データは、組み込みコントローラを経由してIntelのSoCに伝えられる。そこから先がソフトウェア制御となるが、その点、大和研究所にはハードウェアのチームもソフトウェアのチームも在籍しており、一貫して開発できる点が強みだったという。
例として挙げたのはインスタント状態からのカメラオン機能をサポートしている点。いちいち本体電源をオンにする手間はなく、サスペンド状態からでもドックイヤーを開けばタブレットの起動とカメラ機能の起動が自動で行われる。しかし、Windowsの仕様として、本来なら、ウェルカム画面からさらにスワイプ操作しなければカメラ機能を起動できないようになっている。それなのにThinkPad 8でそれが自動化できるのは、スワイプ操作をエミュレーションしているためだ。クイックショットカバー自体便利ではあるが、さらに「ひと手間」をエミュレーションによって省き、ユーザビリティを向上させているのだ。現状、クイックショットカバーから起動するのはMicrosoftのカメラ機能となっているが、この点では、Microsoftとともに、独自のカメラ機能を起動することができないか、協議を進めているとのこと。
また、センサー検知用だけでなく、クイックショットカバーそのもののタブレット本体への装着にも磁石が用いている。ちょっとした衝撃で落ちてしまってはカバーの役目を満たさないため、かなり強力な磁石を用いたとのことで、実際、分解モデルを見せてもらった際も、分解中に磁石にネジがくっついてしまったり、隣の磁石にくっついてしまったりとジャジャ馬な印象だった。
ただ、この強力な磁石な曲者だったそうで、この部分についても苦労話があった。強力すぎる磁石は、そのまま搭載したのでは、ThinkPad 8に搭載されている地磁気センサー(コンパス)にも影響を与えてしまう。そこで、試行錯誤を重ねた結果、これを克服するために、一列に並ぶカバー装着用の磁石のうち、最も地磁気センサーに近い1つのみをプラス・マイナス逆向きに配置することで、コンパスに影響を与えないレベルまで磁力を打ち消すように工夫したのだと説明する。