日本AMDはこのほど、同社が推進する「HSA」(Heterogeneous System Architecture)に関する記者説明会を都内で開催した。説明会では米AMD本社からコンテンツおよびアプリケーション・サポート・シニアディレクターを務めるNeal Robison氏が来日し、「HSA」の現状を説明した。

AMD コンテンツおよびアプリケーション・サポート・シニアディレクター Neal Robison氏

Kaveriの登場でHSAの普及は加速するか

「HSA」についてはマイナビニュースでも何度か紹介してきたが、簡単におさらいしておこう。HSAはCPUやGPUといった異なるプロセッサを同一言語によってまとめて扱うフレームワークだ。AMDでは長い間、CPUとGPUの統合に取り組んできた。CPUに加えて、より大きな演算性能をもったGPUのパワーを生かすことで、処理を高速化できる。

AMDが2014年1月に発表したAPU「Kaveri」(開発コード名)は、HSAに対応した初めての製品となるが、発表時にCPUコアとGPUコアを合わせたコア数を"Compute Cores"と表現していたのは、"CPUとGPUを同等に扱って演算を行う"という部分を強調する目的があったと推測できる。

これまでもAMDは"Fusion"という名でCPUとGPUの統合を進めてきたが、Kaveriがその完成形といっていいだろう

HSAで利用する言語は主にOpenCLで、KaveriではOpenCL 2.0をサポートする。今後は開発者が多いJavaへの対応も予定されており、Oracleと協力体制にあるという。

HSAの開発環境が増えれば、その分対応アプリケーションも増える可能性がある。利用する開発者の数が多いJavaへの対応を急ぐことで、HSAの普及を図る考えだ

KaveriではHSAのポイントとなる共有メモリ空間「hUMA」(heterogeneous Uniform Memory Access)と、CPUとGPUで同じようにタスクを管理できる「hQ」(Heterogeneous Queuing)を実装している。

HSAのキモともいえるのがhUMAとhQである

旧世代のAPUではCPUとGPUで異なるメモリを持っており、CPUメモリとGPUメモリでデータをコピーする必要があったが、「hUMA」によってデータをコピーしなくとも互いにアクセスできるようになった。

さて、以前からAMDではHSAに対応したアプリケーションでは、大幅なパフォーマンス向上が見込めると説明してきた。今回の説明会でもRobison氏により、いくつか対応アプリケーションの紹介が行われた。

Photoshopでは以前からOpenCLをサポートしているが、「Photoshop CC」に搭載されているフィルタ「Smart Sharpen」を使ったテストでは、旧世代APUのRichland(開発コード名)や競合のIntel Core i5プロセッサとくらべて短時間でシャープネス処理が実行できるという。また、コーレルの写真管理ソフト「AfterShot Pro」でも読込や加工の処理を高速で実行できると説明する。

「Smart Sharpen」の処理速度の比較

AfterShot Proでの結果。OpenCLとそうでない場合で大きな差があるとしている

さらにオープンソースソフトウェアのオフィススイートである「LibreOffice」では、HSAによるGPUアクセラレーションを有効にすることで、表計算ソフト「Calc」より高速に処理できるとした。

Calc以外でもHSA対応を進めていくとする

6月のCOMPUTEXで何かが起こる?

このほか、HSAが有効な領域として動画再生や動画のエンコードやデコード、アップスケーリングといったところが挙げられるが、Robison氏はHSAをベースとしたH.265/HEVC向けのソリューションの提供を計画していることを明かした。H.265/HEVCはH.264/AVCの後継となる動画圧縮規格で、4Kといった高解像度の動画をより高い圧縮率で処理できる。その分、エンコードでもデコードでも非常に高い演算能力が必要となる点がネックとなっている。

高解像度の画像処理や動画処理といった部分は最も期待される部分といっていいだろう。COMPUTEX TAIPEI 2014までに何らかの動きがあることは確実であるようなので、注視していきたいところだ

Robison氏は「今後、数カ月以内にH.265/HEVC用にOpenCLとHSAのソリューションを公開する。COMPUTEX TAIPEI 2014で特別なプランがあるように思う」と持って回った言い方だったが、6月に何らかの発表を行うことを予告した。