1月17日にNVIDIAはManufacturing Dayというワークショップを開催した。400人程度入る会場は、ほぼ満席で、製造業のGPUに関する関心の高さがうかがえる。

製造業でのGPUの伝統的な使用法は、グラフィックスワークステーションを使って、車をはじめとして、各種の製品の工業デザインなどを行うもので、この用途に関してはNVIDIAのQuadro GPUは90%以上のシェアを持っているという。

一方、GPUの演算能力の高さと高いメモリバンド幅を科学技術計算に利用するという動きが広がり、Top500の上位10システムの中でも4システムがGPUなどのアクセラレータと搭載するシステムになってきている。また、エネルギー効率でのスパコンのランキングであるGreen500では、1位から10位までのすべてのスパコンがNVIDIAのGPUを使っているというように、エネルギー効率の点でもGPUは優秀な成績を上げている。

このような、性能が高く、エネルギー効率も高いGPUを製造にも普及させようという狙いで、NVIDIAはManufacturing Dayという催しを行っている。第3回目となる今回は、日本自動車工業会を代表して、スズキの砂山氏が基調講演を行った。

日本自動車工業会 砂山氏の基調講演

日本自動車工業会のGPUコンピューティングの調査について基調講演を行うスズキの砂山氏

日本自動車工業会は、日本の四輪車メーカー14社をメンバーとする業界団体で、内部に色々な委員会があるが、その中の1つに電子情報委員会があり、その下にディジタルエンジニアリング部会があり、ここでスパコンなどの調査を行っている。

自動車業界では、早くからコンピュータシミュレーションを使ってきているが、精度を上げるために、モデルが大規模化しており、計算量が増大している。また、解析も非線形領域の解析や非定常解析など適用範囲が広がっており、さらに検討項目の増加や、繰り返し計算して最適化するなど、解析の回数も増加して来ているという。

解析モデルの大規模化、適用範囲の拡大、解析ジョブ件数の増加で計算能力の強化が必要になっている

このため、常に、計算システムの強化が必要になっているという。そこで、計算能力の増強を高いコストパフォーマンスで実現する候補として、GPUの調査を行っている。各社の実データと実アプリを使用して処理時間を計測し、どの程度の性能アップと、コストダウンができるか、消費電力を減らせるかなどを調査しており、実際の使用状態に沿った調査となっている。

エンジンの流体解析(25万粒子)結果。K40を使うとC2075の45%の時間に処理時間を短縮

CPUコア数とGPUチップの付加の有無による計算時間の棒グラフGPUの追加はCPUに比べてライセンスコストが1/3で済む

Particleworksという粒子法の流体計算ソフトで25万粒子のエンジン解析を行ったケースでは、一世代前のFermi GPUであるC2075を使用する場合と、最新のK40 GPUを使う場合を比べると、K40を使うことにより、計算時間を55%削減できている。また、右の図はCPUコア数やGPUの付加の有無を変えて実行時間を測定したもので、1コア(1C)の実行時間を基準として、4コア(4C)では-69%の時間(速度3.2倍)、16コアでは-84%の時間(速度6.25倍)であるが、1コアにK20X GPUをつけた場合は-95%の時間(速度20倍)となっている。この速度向上を16コア分のソフトのライセンス料とGPUを付加するライセンス料で割ると、GPUの方がライセンス料あたりの性能向上は3倍となるという。

また、233万粒子の計算は、6GBのGPUメモリのK20Xではメモリ不足でソフトが実行できなかったが、12GBにメモリが増えたK40では、233万粒子の解析ができるようになっている。

そして、非圧縮流体解析のOpenFOAMによる1800万要素の四輪車の空力解析や、JMAGによるモータの電磁界解析でもGPU使用の効果が報告された。また、Abaqusによるエンジンの構造解析では、ホンダの結果を示して8コアのシステムでの実行と比較して、16コア+2GPUの構成では、実行時間は1/3になり、瞬間的な消費電力は大きいのであるが、結果として消費エネルギーは2.14kWhから1.07kWhと半減していることを示した。

Abaqus実行中の消費電力(縦軸)と時間の測定データ。Xeon8コアの実行(右端まで伸びているデータ)と比較してXeon16コアL2GPUの実行(上に突き出た緑のデータ)は実行時間が約1/3になり、消費エネルギーは半分に減少している

また、同等の実行時間となるシステムで比べると、GPU付きのシステムはハードウェアコストは若干増加するが、ソフトウェアコスト(Abaqusのラインセンス料)の削減の方が大きく、全体としては20%程度コストが下がるという。

GPU使用によるAbaqusのコスト削減効果。左がCPUだけ、右がGPUをつけた場合で、青がハードウェアコスト、黄色がソフトウェアコスト

ということで、GPUの使用により、今回評価したCAEソフトでは計算時間の短縮効果が認められ、構造解析を行うAbaqusでは、コスト、消費電力ともに削減効果が認められるという結論である。

GPUの計算処理への利用は、2011年度の調査ではメンバー9社中の1社だけであったが、2012年度には4社に増加し、2013年度(まだ、終了していないが)には6社と増加しており、GPUを使用する会社が増えているという。

(後編に続く)