―― 時分秒針がありますもんね。カットピザのような形でソーラーセルを設置したら、針の影が落ちるソーラーセルと、影がないソーラーセルが必ず出てきてしまう。

斉藤雄太氏

斉藤氏「そうです。これを解決するには、それぞれのソーラーセルに常に均等に光が当たるようにしなければいけません。

ではどのように実現するか。針の影を一つのソーラーで受けるのではなく、ばらばらにして複数のソーラーセルで分散して受けるようにするのです」

―― ええっ? 針の影を複数のソーラーセルにまたぐように分散化する!?

針の影による受光配分不均衡を解消するためのアイディア

斉藤氏「ソーラーセルが従来の形状だと針をばらばらにすることになってしまいますが、もちろんそんなことは物理的に不可能ですよね(笑)。あくまでも数値だけで見た理論上の話になります。

じゃあ、針の形はそのままで『影』だけを分散させるには、ソーラーセルがどう変わったらいいのか考え抜きました。そして思いついたのが、この渦巻き形状のソーラーセル配置です」

―― こんな変な形をよく思い付きましたね!

斉藤氏「ひとまず、ソーラーセルをダーツの的のように分割して、そのソーラーセルを1コマずつずらして、再結合させていったらどうだろうと考えたんです。これ、ニュースで台風の写真を見ていて思い付いたんですよ(笑)」

答えのひとつとして導き出された「渦巻き形状」

ここでもう一度、従来のソーラーセル(写真右の左側)と、新型の「渦巻き形状」ソーラーセル(写真右の右側)

―― なるほど…。こんな複雑な形だと、製造コストがかかってしまいそうですが。

斉藤氏「最初は作れないのではないかと言われていました(笑)。そこを何とか粘って試作を重ねることで、結果的にはOKとなりました。なお、ソーラーセルはレーザーでカットするので、複雑な形状だからといって製造コストが跳ね上がるわけではないんです。それもこの方法の利点ですね」

―― ただ、時分秒のセンター針はともかく、OCW-S3000/S3001には3つのインダイヤルがありますよね。ということは、各ソーラーセルが同じ大きさだと、やはり発電量に差が生じてしまうのでは…。あっ、よく見るとそれぞれのセルの大きさが微妙に違う!

斉藤氏「それを計算して、インダイヤルのあるソーラーセルは大きくなっています。また、アナログ時計では、時分針の動きを組み合わせたパターンは無限に近いので、どの時刻でも安定して高い受光面積を維持できるようにしたのもポイントですね。針の動きを、きちんとシミュレーションして計算しています」

渦巻き形状のソーラーセルによって、加飾範囲が約1.4倍に(写真左)、針面積が約1.3倍に(写真右)

小島氏「この新しいセルのおかげで、従来比で発電量は最大20%アップ、平均で5%アップしました。ダイヤル上のインデックスやメタルリングといった装飾パーツに割ける面積も、約1.4倍になったのです。これにより、時計としてのデザインの自由度が飛躍的に向上します。

G-SHOCKなどの『強いデザイン』を持つ製品にも有効ですね。デザイナーからは、タフネスや視認性などを考慮して、できるだけ太めの針を使いたいという要望もあるのですが、今まではソーラーセルの発電量からどうしても限界がありました。その限界が、新しいソーラーセルによって引き上げられるのは間違いありません」

改めて、OCW-S3000(写真左)と、ブラックマンタことOCW-S3001(写真右)