尖閣諸島にUASが飛来したことでも話題になった

そこで続いては、UAVに絞る形だが、世界の無人機システムの保有台数や代表的な機体などを題材とした「諸外国の軍事用ロボットの概要 -航空無人機システム(UAS)を中心として-」を見ていく。講演を行ったのは、一般財団法人 防衛技術協会 防衛用ロボット研究部会の岩永正男氏だ(画像19)。なお、タイトルにあるUASとはUnmanned Aircraft Systemsの略称で、無人航空機本体、周辺機器およびオペレータを含めた無人機システム(Unmanned System)全体のことを指す(米国防省の定義)。

なお「諸外国の軍事用ロボットの概要」ではUAVという表現は基本的に使われず、システム全体のUASという表現をプレゼン画像などで使われていることから、「防衛省における無人機研究の取り組み」ではUAVという表現だったが、UASという表現を使わせていただく。

画像19。防衛技術協会の岩永正男氏

まず世界各国のUASの保有・運用機種数、製造・開発会社数の一覧表(画像19)から見ていただこう。2011年のAIAA(The American Institute of Aeronautics and Astronautics)の発行資料による一覧表だ。見方は、「保有」は保有機種数を指し、運用機種数+開発途上および設計中のUASの合計を表す。注意すべきは、保有機数ではなく、保有機種数なので、同じ機種が複数配備されていることもあるので、保有機数はもっと多くなるという。「運用」は運用機種数を指し、部隊配備済み、開発完了、製作中、試験中のUASの合計だ。なお、表中には一部民需用も含まれている(ただし、米国、中国、イスラエル、英国は民事用をほとんど含んでいない)。

画像20。世界各国のUASの保有・運用機種数一覧

この中で、いわずもがなのトップは保有数、運用数、会社数のどれでも群を抜いて米国だ。これは興味のある方なら誰でも想像が付くだろう。有名なUAVの機体といえば、ほとんどが米軍のものだからだ。しかし、2位が中国というのは意外ではないだろうか? 尖閣諸島にUAVが飛来したという話も話題になったことから、中国軍が保有しているのはわかっていても、世界第2位というのは意外な気がするし(国力でいったら今や米国と張り合えるほぼ唯一といっていい大国なので、当たり前と思う人も多いかも知れないが)、いうまでもないが日本の隣国の1つであり、微妙なところである。

そのほか、周囲を敵性国家に囲まれていて、いつ戦争が起きるかわからない情勢からいえば当然かも知れないが、3位がイスラエルというのも意外ではないだろうか。パキスタンが7位というのも以外だろう。イスラエル同様、ここもインドとの関係で緊張状態にある国だから、ということと思われる。

ともかく、この中で日本は15位というわけで、保有している45カ国の内ではランキング的には上位だが、実際の数としては米国や中国と比べるのはもちろん、7位の英国ともかなり差があるのは事実だ。「防衛省における無人機研究の取り組み」で見た通り研究開発は進んでいるわけだが、このようにUAVを必要としないでいられる情勢に感謝すべきなのか、それとも本来ならもっと保有していてしかるべきであってこの少なさには危機感を持つべきなのかは、考えどころである。

また、45カ国で合計683機が運用もしくは開発中であり、今後も無人機が増えていき、すでに米軍の対テロ戦争などは従来とは変わってきているわけだが、それが今後も世界的に続いていくということは間違いなさそうだ。

続いて画像21は、主要4カ国の武装・非武装機首保有数の一覧表だ。4カ国とは、米国、英国、イスラエル、中国(画像20の一覧表の1~3、7位)である。なお武装の定義は、対地攻撃または空中戦闘能力を持つUASをいい、非武装とは情報収集、偵察、監視、通信中継、被害評価などに使用されるUASをいう。

この表からわかるのが、米国は保有機種数こそ多いものの、武装機種数は割合としては少ないということだ(武装機種そのものの保有台数が多いか少ないかはまた別)。偵察・情報収集に重きが置かれているということだろう。一方、中国は武装機種数の割合が多い。必ずしも友好的とはいえない隣の大国なだけに、怖いものを感じてしまう方も多いのではないだろうか。なお、武装機種数は割合としては今のところ少ないが、どんどん増えているという。

画像21。主要4カ国の武装・非武装機首保有数の一覧表

米軍は今後UASの開発予算を削減する!?

次は、米国におけるUASの分類について見ていこう。カテゴリは5種類に分けられ、第1グループは前線で分隊、小隊、もしくはそれ以下の小規模な人数が偵察などで、兵士個人が背嚢に入れて運搬可能な軽量なもの。具体的な機種名は、画像22の分類表をご覧いただきたい。第2グループは、中~大隊規模、数10人から数100人の部隊で使用されるもの。第3グループ、第4グループは、さらにその上の師団規模などで使用されるもので、両グループの差は、飛行速度、運用速度、離陸重量のスペック的な部分である。そして第5グループは戦略級の偵察機および武装グループで、武装UASのほとんどがここに含まれる具合だ(第4までは偵察・情報収集など非武装が多数を占める)。スペック的な条件としては、第4グループとの差はないが、事実上、より大きな機体、また性能的にもより高い機体が含まれる形だ。

そして、21世紀に入ってからの米国におけるUASの年度ごとの飛行時間をまとめたのが、画像23のグラフである。ただし、第1グループのUASは除かれている。最も使われたのが2011年で、70万時間にもおよぶ。戦闘は一段落して、現在は55万時間前後で運用されている。ちなみに、2013年は2012年よりも若干増えながらも、その7~8割が「プロジェクト」となっている点から、次世代のUASの開発に入ったということかも知れない。

米国のUASの運用を予算面から見たのが、2013年と2016年(正確なところは不明だが、今後3年間のということと思われる)の要求額を比較したのが画像24の表だ。決定額ではないわけだが、3軍合計で164億8600万ドル(1ドル=100円計算で、1兆6486億円)となっている(実際の額はもう少し減るというが、さらに別枠の予算があるということで、結局のところ差し引きしてこの額と変わらないか、多くなるぐらいだろうという推測だ)。要求額では、海軍が空軍とそれほど変わらない額を要求している点が興味深い。UASというと、基本、空軍の管轄(陸軍の前線の兵士が使うことも多いと思われるが)というイメージで、艦載機は後ほど紹介するが、現在開発が行われている真っ最中で、その開発費用ということなのかも知れない。

画像22(左):米国におけるUASの分類。画像23(中):米国におけるUASの年度ごとの飛行時間。画像24(右):米国のUASの運用予算