初代Priviaがデビューした当時の状況について、カシオの高津氏は以下のように振り替える。

今回の取材にご協力いただいた、カシオ計算機 戦略統轄部 SP戦略部 コンシューマSP室 室長 高津英滋氏。初代「Privia」の企画に携わった、電子ピアノの生き字引的な存在だ

高津氏「当時、最高の技術とノウハウを結集して開発した初代Priviaは、その名『Privia』(Private+Piano)が示す通り、スタイリッシュで持ち運びも可能な小型軽量の電子ピアノとして、新しいジャンルを切り開きました。

もちろん現在と比較すれば、ピアノとしてのサウンドや表現力において、十分でない部分もあったでしょう。ですが、誰もがもっと自由に、もっと気軽に、プライベート感覚で楽しめる身近な電子ピアノという、Priviaの開発コンセプトを体現した製品です。

価格的にも、実勢で5万円台からという(当時としては)挑戦的な設定を初めて行い、新たな市場を開拓できたのも、Priviaのコンセプトがあってこそだったと思います。初代Priviaのリリース当初は、こんなポータブルキーボードのような小型ボディや低価格で、本当に音や演奏は大丈夫なの?と、心配されたりもしましたね(笑)」

今では、スタイリッシュピアノの代表的存在として多くのユーザーから認知されているPriviaシリーズのデザインについて、「最新モデルのPX-A100でもそうですが、最近ではシンプルなデザインが支持されています。音色の切り替えボタンなどもできるだけ少なくして、直感的な操作やデザインを実現しています。なお、今回のPX-A100では、メタリック(レッド/ブルー)という従来の電子ピアノにはない斬新なカラーを採用しました。これも新たなユーザーに、電子ピアノに興味を持っていただくきっかけの1つとなれば嬉しいですね」と高津氏。

鍵盤と音源が大きく進化

ピアノという楽器の存在をより身近にしてくる電子ピアノ。ホビーユースだけでなく、ピアニストの練習用や学生の習熟用途、さらにはプロフェッショナルのライブステージなどにも用いられるほど、現在はリアルかつ多彩な演奏表現が可能となっている。その要因の1つが、プレイヤーの指先とダイレクトに触れ合う鍵盤パーツと鍵盤機構の進化だ。

高津氏「初代Priviaから、鍵盤機構にはピアノ独特のフィーリングを再現すべく、電子ピアノ専用に設計されたものを採用していました。現在では、それをさらに進化させた『3センサースケーリングハンマーアクション鍵盤II』を搭載しています。3つのセンサーによって、打鍵の検出から発音までの時間を『音域や打鍵の強さ』に応じて変化させるなど、グランドピアノに迫る自然な弾き心地を再現しています。

この鍵盤は、実際の演奏において連打性の向上にも大きく寄与します。また、鍵盤自体も従来の光沢仕上げから、白鍵は象牙調、黒鍵は黒檀調にしました。吸湿性にも優れた素材に表面処理を施し、より快適に演奏を楽しんでいただけるようになりました」

Privia初代機「PX-100」の鍵盤(写真左)と、10周年モデル「PX-A100」の鍵盤(写真右)。PX-A100の白鍵は象牙調で、表面に微妙なスジが入っているのが分かるだろうか。これが指先のフィット感を生む

そして、こうした鍵盤の進化とともに見逃せないのが、電子ピアノにとってサウンドと表現力の要となる音源部分の強化だ。

高津氏「10年前のピアノ音源では、鍵盤を弾く強さで強弱2段階のサウンドを分ける『デュアルエレメント方式』を採用していました。当時の低価格機では先進的な音源方式でした。

最新のPX-A100では、映像分野で皆さんもよくご存知のモーフィング技術を応用した『マルチディメンショナルモーフィングAiR音源』によって、弾き方や発音からの時間経過による三次元的な音色変化を、無段階で滑らかに再現できるようになりました。

また従来は、グランドピアノ特有ともいえる弦の共鳴をデジタルピアノで表現するのは難しかったのですが、AiR音源では、ピアノの鍵盤を叩いたときに発生するすべての弦の共鳴を、リアルタイムのデジタル処理で再現しています。これにより、これまでの手法では不可能だった、グランドピアノならではの自然で深みのある響きを出せるようになったのです。

加えて、PX-A100には鍵盤や音源の最新技術にとどまらず、世界的にも有名なコンサートホールなど10種類の音響特性を再現した『ホールシミュレーター』なども搭載しています。自宅にいながら、さまざまなホールなどで演奏しているような臨場感も存分に味わっていただけますので、ぜひ一度、PriviaのPX-A100に触れて、そのサウンドや弾き心地を楽しんでいただければ幸いです」

また、ホールシミュレーターのほかにも、10種類のグランドピアノ音色を楽しめる。内容は、グランドピアノ・コンサート、グランドピアノ・ロック、グランドピアノ・ジャズ、グランドピアノ・クラシック、グランドピアノ・ポップ、グランドピアノ・ダンス、グランドピアノ・LA、グランドピアノ・メロー、グランドピアノ・ブライト、ピアノパッドだ。

取材の中では、高津氏自身にPX-A100を試奏いただきながら、特徴について説明していただいた。電子ピアノとしての基本性能の高さに加え、バリエーション豊富な10種のグランドピアノサウンドやホールシミュレーターなど、デジタルならではの様々なアドバンテージも、Priviaの大きな魅力だ。

今回はPriviaが刻んできた10年の歴史を振り返ってみたわけだが、その進化と変化には本当に驚かされるものがあった。さらにこれから10年で、Priviaがどのように進化を遂げるのか、より一層、楽しみが増した。我々の想像をはるかに超えたテクノロジーとアイディアを具現化した電子ピアノの登場に、期待せずにはいられません!