9月6日~11日までドイツのベルリンで開催されていたエレクトロニクスショー「IFA2013」で発表された「RICOH THETA」をご存じだろうか? 全天球、360°撮影が可能な画像インプットデバイスで、これまでにない撮影体験ができる新機軸のカメラだ。

今回は、RICOH THETAを開発したリコーの総合経営企画室 新規事業開発センター VR事業室で室長を務める生方 秀直氏と、同事業室 マーケティングユニットの大越 瑛美氏、同ユニット 坂本 佳子氏に開発の経緯や今後の展望をうかがった。

THETAは"メイド・イン・ジャパン"

初めに製品の外観を見ていただこう。THETAは、小型で重さ95gの手馴染みが良いデバイスに仕上がっている。この手のデバイスでは、質感を無視したものも少なくないが、マットな樹脂素材を使用しており、手触りが良いソフトな質感で筆者としては非常に良い印象を受けた。

デバイスの両側にカメラを搭載することで、360°全天球撮影を可能にしているが、レンズ部分の出っ張りは意外と少ない。サイドから見ると、魚の目のように見え、レンズがこちらを向いているかのような錯覚を起こす。

日本製のTHETA

電源ボタンとWi-Fi接続ボタンがある

レンズの出っ張りは少ない

三脚穴があるため、遠くに離して撮影することも可能で、見せてもらった画像の中には撮影者の数m上から見下ろした360°画像もあった。ダイナミックな映像体験はTHETAならではの特徴と言えるだろう。

下部。三脚穴がある

USB端子で画像をPCに転送できる

上部。穴が見えるが「特にお話しできることはない」とのこと

生方氏は「持っていて"気持ちいい"と思えるデバイスを作りたい」と考えてTHETAのデザインや大きさ、形状を考えたという。製品化を行うにあたっては、カメラ部門のデザイナーに限らず、社内全体からデザインの公募を行ったという。そして実際に、カメラ以外のデザイナーが描いたデザイン案が採用されている。

また、THETAは独自開発の超小型二眼屈曲光学系を採用している。普通に考えてみると、二眼であってもデバイスの厚さを考えると「厚さの分、撮影できない領域が生まれるのでは」と思うだろう。

実際に、筆者もそのような疑問を持っており、生方氏に質問したところ「数値は出すことはできないものの、レンズの屈折率を上げることで180°以上の領域をカバーしている。超超広角レンズを新設計した」と答えてくれた。

新たに設計したレンズは日本でしか作ることができない。「中国などの工場では生産できず、日本の生産技術でなければできなかった。RICOHが長年培ってきた屈曲光学系のノウハウがあってこそのもの。外部にお願いするということはできないものだった」(生方氏)といい、完全に"メイドインジャパン"であることを明かした。

専用サイトなどで360°画像を体感できる

撮影した画像は専用サイトにアップロードして、360°全方位にグリグリ動かして見ることができる。今回は取材時にTHETAで撮影を行ったので「https://theta360.com/spheres/1262」で確認して欲しい。

また、下に掲載している動画はiOS端末で閲覧している場面を撮影したものだ。画像サイズが大きいものの、なめらかに閲覧できているのがわかる。

これだけの広角、かつ全天球の360°撮影を行うと、撮影画像に歪みが生じてしまうと思いがちだが、実際に画像を見てみると意外や意外、見たい位置を正面に持ってくると表示領域の中での歪みはあまりない。そればかりか、二眼の半球画像の繋ぎ目もほとんど認識できないほどの画像に仕上がっている。

「歪みを補正しており、繋ぎ目の部分も画像処理をTHETA内部で完結している。近付いて撮影したものはつなぎ合わせが難しく、うまく行かないケースもあるが、ほとんどの場合は繋ぎ目はわからないと思う」(生方氏)

なお、下の画像は、撮影した画像の縮小版だが、3Dの空間座標が反映できていないため、ただの歪んだ長方形の画像に見える。なお元サイズ(3584×1792)の画像はmynavi_theta.zipにアップロードしているので、ぜひご覧いただきたい。

撮影画像の縮小版

そのままの状態で見ると大きく歪んだ画像だが、先に触れたサイトやWindowsソフト、iOSアプリ(Android向けは年内に提供)で閲覧すれば、綺麗に歪みのない画像であることが見て取れるだろう。画像の下に見える白い影はTHETA本体だが、専用ソフトで見た場合は、ほとんど気にならない。

最初だからこそシンプルに

シンプルな外見と同様に、撮影機能も1枚の写真を撮るだけであとは露出を変えることができるだけと、いたってシンプルだ。生方氏は「新しい映像体験を感じてもらうために、機能をあまり詰め込みすぎないようにした」と語る。

インターバル撮影や動画撮影といった撮影機能があれば、夜空の定点観測などに使用して様々な可能性が広がるように思えるが、生方氏は「確かにそういう話もあったが、世の中に一度問うことにした。動画を撮りたいというニーズや超高解像度のニーズ、低価格で気軽に撮影したいというニーズなどは試してみないと分からないことが多い」と話し、意図的にシンプルなデバイスとして世に送り出した狙いを話す。

「シンプルなデバイスだから、色々利用方法を探すのは難しい。なので、今はクリエイターの方にTHETAを試してもらって映像表現の在り方を模索していただいている。幸いにも『面白い絵が撮れる。こんなカメラ見たことない』というレスポンスをSNSを通していただいている状況」(生方氏)だという。

撮影画像の加工については、「そういった話が外部から来た場合、個別に提携してAPIを公開するといった方向性は考えている。将来的には無償での公開も視野に」(生方氏)との回答。なお、すでにマイクロソフトと提携し、同社のパノラマ撮影/閲覧サービス「Photosynth」との連携が行われている。

撮影や画像転送インタフェースなどもシンプルを意識したという

目標はコミュニケーションツール

アメリカやイギリス、ドイツ、フランスではすでに予約受付を開始しており、想定通りの予約ペースだという。

「欧米での評価は上々。また、日本国内での販売は検討中にも関わらず、多くの反響をいただいた。そのため、国内販売のお知らせメール登録ページを急遽用意したが、こちらも予想以上の予約数となっている」(生方氏)。

リコーといえば一眼レフやコンパクトデジタルカメラなどでも定評があるが、「もちろんそういうカテゴリもしっかりとやっていくが、世の中にない製品を送り出すことで市場を切り開いていかなくてはいけない。そのためにもTHETAを送り出した」(生方氏)のだという。

生方氏は続けて「まだこのカメラの使い方は私たちにも分からないところがある。ユーザーサイドで使い方を発明してもらえるといい」とも話し、今後の発展はユーザーがどのような反応をみせるかによって変わってくることも示した。

最後に「最終的には人や対象物の撮影だけではなく、THETAをコミュニケーションツールにしたいと思っている。今まで見たことない驚きのある映像をTHETAという我々の技術の結晶で提供する。この驚きが広がって1年後にはこういう撮影もあるんだと普通の人に知ってもらえるようになっていると嬉しい」と生方氏は締めくくった。

生方氏は最後にTHETAを持ちながらニッコリ

なおリコーでは、10月12日に東京都・六本木で、日本初となるRICOH THETAのタッチ&トライイベントを開催する。(リコー、全天球撮影ができるRICOH THETAのタッチ&トライを10/12に開催)

国内での販売は未定のため、RICOH THETAに触れることのできる数少ないチャンス。ぜひ触れてみて自分自身で"新たな体験"をしてほしい。