岡山大学(岡山大)は7月31日、従来の心筋梗塞治療薬のターゲットとは異なるイオンチャネル「TRPM4(一過性受容器電位チャネルサブタイプM4)」を阻害薬で不活性化させると、心筋梗塞の進行を抑えられることをラットを使った実験によって明らかにし、さらにこの心筋梗塞の抑制効果はKATPイオンチャネルを不活性化しておいても認められたと発表した。
成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科の高橋賢助教、同・成瀬恵治教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、7月25日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
心筋梗塞の予防・治療薬としてすでに臨床試験が進められている「アデノシン」などの従来の薬剤は、作用経路として心臓の細胞のミトコンドリアに存在する K ATPイオンチャネル(アデノシン3リン酸感受性カリウムチャネル)を活動させるのが一般的だった。それに対して今回のTRPM4は心臓細胞表面の細胞膜にあり、心筋細胞(心臓の筋肉細胞)の電気活動に関わっていることが特徴だ。
今回の研究で、急性心筋梗塞を起こす前にTRPM4チャネルの阻害剤を投与すると心筋梗塞の大きさが対照群の4分の1以下に抑えられ、心臓の収縮機能の低下や不整脈が抑えられることが確かめられたのである(画像1・2)。さらに、今回の発見では、K ATPイオンチャネルを不活性化させておいても心筋梗塞の発現が抑えられることも確認された。
TRPM4阻害薬9-フェナンスロールによる心筋梗塞予防効果。写真はラットの心臓の輪切り。黄色い部分が心筋梗塞により壊死した部分を示す。画像1(左):薬の投与なし。画像2(右):薬の投与あり |
心筋梗塞との併発が多い心不全や糖尿病などの病気ではミトコンドリアの機能が低下しているため、ミトコンドリアK ATPイオンチャネルを必要としないTRPM4阻害薬は心筋梗塞の新しい予防・治療法となる可能性があるという。今回の研究の成果により心筋梗塞のメカニズム解明と、その応用による心筋梗塞の予防・治療法の開発が期待されるとしている。