アドビシステムズは6日(米国時間)、6~8日にわたって開催中されているユーザカンファレンス「Adobe MAX 2013」の基調講演において、同社が提供しているAdobe Creative Cloudの大幅なアップデートを、6月17日(同)に予定していることを発表した。

Adobe MAX 2013基調講演。プロジェクションマッピングを用いて大迫力のスクリーンを実現している

基調講演に登壇したShantanu Narayen氏

新バージョンの開発リソースはCreative Cloudに集中させる

Adobe Systems, CEO, Shantanu Narayen氏

Adobe MAX 2013の基調講演に登壇した同社CEOのShantanu Narayen氏は、「クリエイターの皆さんがどのようにしてインスピレーションを得るかということが大切。ツールやデバイスが出そろい、ソーシャルを活用したコラボレーションが可能になってきた一方で、インテグレーションに関しては依然としてうまくいかない面があり、クリエイションの孤立化を生んでいる」と指摘。その上で「Creative Cloudがこれを解決する」と語った。

Creative Cloudは2011年に同社が発表したクラウドサービス。サブスクリプションモデルのライセンスによってCreative Suiteに含まれる各種製品や、Digital Publishing Suiteなどの各種クラウドサービス、HTML5/CSS3を中心とする最新のWeb技術をサポートしたWebデザインツール群「Adobe Edge Tools And Services」などが自由に使えるほか、オンラインストレージやコミュニケーション機能、他のサービスとのコラボレーション機能などが提供される。この日発表されたアップデートによる最も大きな変化は、Creative Suite製品との関係だろう。

Adobe Systems, Senior Vice President兼General Manager, David Wadhwani氏

同社でディジタルメディア担当のSenior Vice President兼General Managerを務めるDavid Wadhwani氏は、従来Creative Suite製品群のひとつとして提供されてきた各種製品の新バージョンは、今後は「CC」の名称でCreative Cloud経由で提供していくと発表した。例えばPhotoshopの新バージョンは「Photoshop CC」、Illustratorは「Illustrator CC」のような形になる。永続ライセンス版のCreative Suite 6については今後もサポートおよびパッケージ形態での販売が続けられるが、新機能を備えた後継バージョンについてはCreative Cloudでの提供に一本化し、パッケージでの提供はしないとのことである。

アドビでは当初よりサブスクリプションモデルのCreative Cloudへの移行を推進してきたが、今回の発表はそれをさらに推し進めたものとなる。各製品の開発リソースをCreative Cloud経由に集中させることで、イノベーションのさらなる加速を実現したいとのことだ。

ツール間の連携や他ユーザとのコラボレショーション機能を大幅に拡張

具体的な拡張内容としては、「Photoshop」や「Illustrator」、「After Effect」、「Edge Reflow」、「Edge Code」の新機能などが紹介されている。例えばPhotoshopでは、Adobe MAX 2011のSneak Peeksセッションで紹介された強力な手ぶれ補正機能が正式版として登場するとのこと。また、PhotoshopにEdge Reflowへの書き出し機能が追加されることや、Edge ReflowやEdge CodeでEdge Inspectのマルチデバイス・デバッグ機能が利用できるようになるなど、ツール間の連携機能が充実してきたことが注目点と言えそうだ。

Edge Reflow CCとEdge Inspect CCの連携

もうひとつの重要なアップデートとしては、コラボレーションおよびパブリッシング機能の大幅な強化が紹介された。特に注目すべきは「Behance」を利用したコラボレーション機能の統合だ。Behanceは2012年12月にオンラインソーシャルメディアプラットフォーム。ユーザは自分が作成したコンテンツを公開し、それに対する他ユーザからのフィードバックを集めることができる。Creative CloudにBehanceが統合されたことによって、アドビの各種ツールで作成したコンテンツをよりシームレスに全世界に公開しフィードバックを得ることができるようになる。そのほかに、Typekitで提供されているWebフォントをデスクトップにもインストールできる「Typekit for Desktop」や、「Adobe Kulr」のCreative Cloudとの連携機能なども紹介された。

コンテンツのアセットから公開までをシームレスに実現

各ツールの新機能で、イノベーションのキャンパスを広げる

各種ツールのインストールやクラウド連携を容易にするアプリが提供されるという点にも注目したい。現在、Creative Cloudを使ったアプリケーションのダウンロードおよびインストールは、Adobe Applicatipn Managerによって統合的に行えるが、今後はこれをさらに拡張した「Creative Cloud Desktop App」が提供されるとのこと。このデスクトップアプリでは、最新ツールのインストールの他に、Typekitによるフォントの管理や、Behanceへのアクセス機能なども統合されるとのこと。また、各ツールの設定やワークスペースをクラウド上で管理し、他のPCにインポートするなどといったことも可能になる。さらに、Creative CloudのクラウドリソースにアクセスするiPhone用のアプリも用意中とのことだ。

Creative Cloudのリソースを統合的に管理できるCreative Cloud Desktop App

オープンなAPIも提供する予定があるとのこと

Creative Cloudでイノベーションは加速する

2011年にCreative Cloudが発表された当初は、クラウド的な要素が少なく、Adobeのツールやサービスの集合体といった印象が強かった。今回発表された新機能の数々はこれまで足りなかった様々な要素が見事に補完しており、Creative Cloudが本当の意味でクラウドサービスと呼べる姿に進化することを期待させてくれる。

Creative Cloudですべてのアプリを使うことができるということは、専門分野の垣根が取払われ、それまで使ったことの無いツールでも気軽に試しすことができるという意味でもある。そしてその新しいエクスペリエンスから、各自の仕事に合った新しいワークフローを確立していくことが重要になるだろう。Creative Suite製品の新バージョンがCreative Cloudに一本化されるという決定は、クリエイティブツールのあり方に関するアドビからの強いメッセージと受け取ることもできるだろう。

Creative Cloudのアップデートは2013年6月17日(米国時間)に行われる予定とのこと。