自動運転・隊列走行の要素技術とその開発組織

続いては、各種要素技術とその開発組織を紹介する。今回のコンセプトX車両やコンセプトZ車両には搭載されていない、さらに先を見据えて開発中の技術も紹介されていたが、紹介されている技術を中心に紹介する。

まず産総研は、高い受容性、操作性と安心感、安全性の確保、覚醒度維持を目的とした車内・車外の情報表示や操作画面の研究開発を目的とした「隊列走行・CACCのためのヒューマンマシンインターフェース(HMI)」の研究開発と、隊列走行での安全確保を主目的に「隊列走行のための衝撃吸収バンパ」の開発を担当した。

このHMIだが、安心・安全・操作支援を、制御ループ内にいるドライバーに与えるものとして開発されており、特に後述する3点について考慮されて設計されている。まず、HMIの構成は自身の故障を考慮して装置、情報提示共に多重化すること。次に、システムの正常動作と目標制御の状態が常に確認可能、異常状態を警告可能であること。さらに、隊列形成時などのドライバー操作を支援し、安心感を向上させるための情報を提供すること、となっている。今後の開発では、ドライバーの特性と個人適合に対する柔軟性を考慮した情報提示の実現を目指して開発を行うと共に、基準となる情報提示や操作方法を構築し、実運用に耐えうるHMIの実現を目指すとしている。

画像32。コンセプトZのHMI

画像33。コンセプトXのHMI

画像34。運転席周りの追加装備

画像35。運転席。助手席側からなので少しわかりにくいが、画面左側のカーナビのようなモニターがHMI(コンセプトZ)

動画
動画7。コンセプトZ用HMIの動作の様子。トラック自体は、前方に乗用車を検出して自動的に追突を避けるべく減速し、最後は停止する
動画8。先頭車両の前に低速走行の一般車両がある時に減速した時の、コンセプトX用HMIの動作の様子

続いては、衝撃吸収バンパについて(画像36・37)。これは4m車間隊列走行時に、ブレーキの多重故障などの最悪事象が発生した場合を想定した衝撃の吸収または緩和装置だ。アルミ材の変形(破壊)により衝撃を吸収・緩和させる仕組みで、油圧ダンパーなどだと反発(跳ね返り)が大きく乗員のムチ打ちが発生してしまうため、追突において乗員の首部にほぼ無障害となるキャビン部での4G以下を実現した。ちなみに、アルミ材は変形・破壊してもまた回収して再利用できるという、エコロジーな点も優れている。

画像36。衝撃吸収バンパ。一般的なバンパより後方につきだしている。なお上に見えるのは、後方のドライバーに文字情報で伝えるための状態表示用LED文字パネル。

画像37。バンパを真横から。単独で走る時は、押し込んで収納しておくことも可能

大同信号は、前述した走行制御ECUのフェールセーフ化を担当。鉄道信号で実績のあるフェールセーフマイコンをベースにして、今回の並列2重系の走行制御ECUを開発した(画像38)。仕組みとしては、まずA系、B系の2つのCPUで演算されたデータを、それぞれフェールセーフ比較器にセットして比較照合が行われ、結果は両CPUに通知を行う。そして通知を受けたCPUは比較一致の場合は次の動作へ移るが、不一致の場合は停止となり、故障系としてシステムから切り離される。これによりCPUの故障やノイズなどによる誤動作を防止する仕組みだ。

比較器は、比較照合が正常に行われている間、リレードライブ回路に対してパルス(交番信号)の出力を行い、比較不一致時はその出力が「High」か「Low」レベルに固定される。また、両CPUからの「ウォッチドッグタイマ」も実装されており、こちらも正常時にパルス出力を行う仕組みだ。リレードライブ回路は、その2つのパルスによりリレーをドライブし、システム異常時はこのリレーにて出力の最終段がカットされ、誤出力を防止することができるのである(画像39)。

画像38。走行制御ECU本体

画像39。フェールセーフの機構

弘前大が開発したのは、隊列走行の自動操舵に必要な車線内の横位置情報を、車両側面の前後2箇所に下向きに設置した2台のCCDカメラから求める白線の画像認識技術だ。前述したように逆光や降雪、豪雨などに頑強で、前走車の影響も受けないため、高い白線認識率が得られるのが特徴だ。これにより、より短時間で隊列走行を組めるのである。

白線認識の基本アルゴリズムは、まず側方カメラの画像からレンズによる歪みを補正してエッジを検出、さらにノイズを除去(ピーク検出)。続いて、白線候補点検出(白線縞チェック)を行い、直線の検出(Hough変換)に至るというわけだ(画像40)。白線認識装置は、150MHz RISCコア×3の東芝製CPU「Visconti」(消費電力1W、作動温度-40~85℃)を採用。

認識精度は、かすれ線など不明瞭な白線、汚い路面も含めた東北自動車道の路面の映像を用いて、実線が100%、破線が99.95%、ゼブラ線が99.51%、(分合流時の)太実線が99.77%、実線+太実線が99.33%と、99%以上の確率で認識している(画像41)。また、側方カメラの短所である視野の狭さ(前方を見通せない)は、GPSを用いて区画線情報を記録した多重情報地図データベースを利用することで、補う形だ。なお今後の課題として、光学系の改善(輝度飽和、夜間)、フレーム間の関係を用いた誤検出の抑制などを挙げている。

画像40。CCDカメラの画像から白線認識までの流れ

画像41。これだけ多くの白線のパターンがあるが、認識率は99%以上

日産自動車の「投光式高速ビジョンセンサ」はまだ開発中の技術で、今回のトラックには装備されていない。同期検波の原理、つまりカメラに同期した光を路面に対して照射して反射する変調光を抽出し、周囲の照度変化の影響を受けずに道路区画白線映像を撮像可能なビジョンセンサである。

要は、日なたと日陰、トンネルの内と外、時間帯や季節などによって、高速道路の路面への日照条件は変化するわけだが、それを細かくフラッシュを連続して焚くような形で路面に投光し、その反射波のみをとらえることで、周囲の照度変化とは切り離して白線を検出できるというわけだ。そのため、投光されていない状態だと真っ暗になるが、カメラに同期させた投光を行うと、ちゃんと見えるのである(画像42・43)。

さらに、それらをフォローする仕組みとして、過去データを活用した認識率向上技術が用いられており、晴天・曇天時にはカメラ同様の認識結果を得ることに成功している。また雨天時に関しては、反射特徴を考慮した波形成形技術により、晴天時と同様の白線とアスファルトの反射強度差をえることに成功した。

画像42。左は通常のカメラで、右が開発中のカメラ。ヌイグルミにそのカメラと同期させたライトを当てることで、真っ暗な中にスポットとなった顔の辺りが見えている

画像43。ヌイグルミの後ろの黄色味がかったスポットが、その特殊なライト。肉眼ではわからないが、細かく点滅している

金沢大は、レーザレンジファインダとミリ波レーダのセンサフュージョンにより、車両周辺環境を認識するアルゴリズムを手がけている。その内容は、得られた全観測値の中から、カルマンフィルターにより時系列的に追跡して移動物体の運動を推定するといった方式で、立体物を検出する。ミリ波レーダとレーザスキャナで独立して検出を行う形だ。そして両センサで同一部の物体を検出した場合は、細小分散に基づく情報統合を行う。それぞれ別の物体を検出した場合は、近い物体を検出したセンサを優先する。

それから同大学では、指定した周辺環境情報と地図に基づいて先行車両を認識する技術も開発中だ。デジタルマップと車両情報を基に自車前方の走行レーンを生成し、その走行レーンと物体の位置情報を照合して検出物体の存在するレーンを判定するというものである。走行レーン上に検出物体があれば、先行車両として認識する仕組みだ。

NECは、前方の障害物検出用の遠赤外ステレオカメラを開発している。100m先の物体認識を想定し、VGAフォーマットの遠赤外線カメラモジュール(画像44)と39mmレンズが選定されており、遠赤外線カメラには非冷却型遠赤外線撮像デバイスを採用。また、簡易防水を備えた作りにもなっている。テストでは、視差画像および距離情報を得ることに成功している。実際に今回開発された唯一の小型トラックであるエルフに積んで実際に試験が行われた(画像45)。

将来的には、夜間の視認性に優れた遠赤外線カメラの特長を活かして、高齢ドライバーなどの安全運転支援前方監視センサとして、市街地走行における歩行者検知(画像46)、特殊車両での偵察・監視、固定設置の監視用途などへの適用可能性を検討するという。実用化に向けた課題としては、さまざまな環境下における被写体評価データの蓄積、キャリブレーション方法の簡易化、および装置の小型化を挙げている。

画像44。カメラモジュールと、背後のモニターはリアルタイムで撮影している遠赤外線画像

画像45。エルフの運転席上にステレオカメラとして設置されている

画像46。遠赤外線ステレオカメラの応用イメージ

遠赤外線ではないが、東工大もステレオカメラによる障害物認識技術を手がけている。110万画素・160fpsの高精細・高速ステレオカメラをすでに開発済みだ。そのスペックで同時撮影された2枚の画像をステレオマッチング処理にかけて立体画像を得る仕組みである。この膨大なデータの処理を高速化するため、FPGAを用いている。補正・校正やフィルタリングなど、すべての画像処理をFPGAで行う仕組みだ。

その性能面だが、可視光ステレオカメラにおいては、100m以上遠方から車両に近づいていきながら距離を測定し、2%以下のバラツキで見失うことなく距離の計測に成功している。また、30m前方に突然侵入してくる物体の1フレームでの検出にも成功した(画像47・48)。前述したNECの遠赤外ステレオカメラによる障害物検出も共同開発しており、新しくFPGAボードを開発した結果、視差画像を得ることに成功している。なお、歩行者については80mの遠方から検出することができたという。今後の課題としては、逆光での検出率の極端な低下があり、可視光と遠赤外の両カメラを併用するなどして解決策を探るという。

画像47。高速道路を実際に走行し、視差画像から立体物を検出

画像48。突如衝突の危険性があるコース上に飛び出してきた障害物を瞬時に認識することに成功

OKIは、高い信頼性を要求される大型車隊列走行向けに、パケット到達率99.92%を実現する車車間通信技術の開発を進めた(画像49)。仕様の決定から行われ、電波の通信仕様は、中心周波数は前述したように5.8GHz、変調方式π/4シフトQPSK、帯域幅4.096MHz、送信電力10dBm、アンテナ指向性は無指向性(全方位)、アンテナ利得4dBi、ダイバーシティは受信ダイバーシティあり(選択方式)、誤り訂正はTurbo符号(符号化率1/3)、MAC方式はCSMA/CA、連送回数は2回以上、情報更新周期20ミリ秒、データサイズ56byteとなっている。

一方の光通信の方は、光波長850nm、変調方式がON-OFF-keying、変調周波数がCH4が3.56MHz、CH5が4.32MHz、通信速度100kbps、通信距離1~15m、通信角度7~30deg、通信方式が全二重通信、通信周期20ミリ秒、連続無線通信時間100ミリ秒、データ長56byte、エラー検出がCRC-CCITTだ。

検証も行われ、環境は電波が試験路における隊列走行、実道路(高速道路)での通信品質評価を実施し、光は降雨、降雪、西日、霧環境下での通信品質評価を実施し、パケット到達率の目標値である99.92%を満足することが確認されたのである。今後の展望は、自動運転隊列走行に必須なだけでなく、安全運転支援、快適走行支援などのほかのサービスへの展開も検討中だという。なお、いうまでもないが、無線と光通信を用いた実験装置を開発し、今回のトラックに搭載された。

画像49。左のケーブルでつながっているのが無線機器で、右の2つが光通信用の機器

今回、試乗で先頭車両のトラックだったため、2台目、3台目でないと見られないレーンチェンジに対して自動追従する様子は撮影できなかったのだが(コース脇からもタイミングが合わずに撮影できず)、コンセプトZの3台はレールが敷かれているかのように、同じライン取りできれいにレーンチェンジを行っていた。

慶応大は、大型トラックのCACCにおける車両制御ということで、隊列形成システム、省エネ走行制御、CACCの制御ソフトウェアを開発している。JARIによるCACC実験車の車車間通信を用いた車間距離制御システムの開発では、慶応大が車両モデルやエンジントルクマップ、CACC制御アルゴリズムの開発を担当した。

CACC制御手順策定に際しては、同報通信とASVメッセージセットの利用が仮定された。車車間通信には同報通信を用いて、200m程度の範囲にいる全車両から情報を受信できると仮定として開発が進められた。ASVメッセージセット(ASVの運転支援アプリケーションに用いられている車車間通信メッセージセット)の自由領域をCACC車群形成や車間距離制御に必要な情報の交換に、またASVメッセージセットの車両ID(ビークルID)を車両の識別に利用している。それにより、CACC車群の先頭車や追従車の情報の検出などが可能になっている。

このほか、デンソーの「レーザレーダを用いた白線検知技術」、東大の「3Dモデルと遠赤外線カメラによるトンネル内位置同定システム」、「空気式保安ブレーキ装置」、「ドライビングシミュレータを用いた隊列走行時のヒューマンファクタ研究」、「センサ・ECU長期性能評価」、三菱電機の「(準天頂衛星「みちびき」を利用した)高精度自車位置評定技術」、日大の「横方向車両運動モデルの設計」、「トレーラ型トラックの車両運動モデルの設計」、「目標軌跡生成技術の開発(隊列走行衝突防止用目標操舵および目標速度生成アルゴリズム開発)」、神戸大の「隊列走行における制御アルゴリズム」なども紹介されていたが、これらはまた次の機会に紹介したいと思う。

ドライバーなら誰もが、程度の差こそあれ、自動運転機能をほしいと思っているはずだ(自分で運転するのが楽しいのであり、自動運転など邪道、という方もいるだろうが)。今回は、大型トラックの幹線高速道路向けの技術なので、実用化されたとしても、一般のドライバーにとってすぐ利用できるものではないのだが、将来的には一般自動車用の技術へと発展していくことは間違いない。よって、まだしばらく先ではあるが、楽しみにしてもらっていいのではないだろうか。

自動運転はエコロジー面だけでなく、運転ミスによる事故を減らせるといったメリットもある。特に高齢者による事故が近年は増えており、技術でカバーしてもらいたいところである。今後も、ぜひとも自動運転技術の開発ペースを加速させてもらって、無事故・無違反の安心・安全な車社会が1日でも早く到来するよう期待したい。