自動運転のメリットとは?

それぞれもう少し詳しく説明すると、まず自動運転で走るということは、そのトラックの隊列の走行が人の運転に比べてスムーズになる(スムーズにする)ということで、そうした自動運転のトラックの隊列がいくつもあれば交通流が改善されるということ。

また交通容量の増大とは、単純にいえば、車間距離が4mという隊列走行がいくつもあることで、同じ道の同じ距離の中でも走れる台数が増す、ということだ。本来、高速道路で運転する際は、時速80kmであれば80m、時速100kmであれば100mは車間を空けるのが目安と言われるのは、免許を持っている方なら誰でもご存じだろう(もちろん、実際のところはもっと狭い間隔で走ってしまうドライバーは多数いるし、中には一般道のような車間まで詰めてあおるマナーの大変悪いドライバーもいるわけだが)。

しかし、それが車間4mで走れるとしたら、どれだけ台数が多くなるかというのは、すぐに想像がつくはずだ(実際の車間4m走行は、画像2や3、動画1・2をご覧いただきたい)。単純計算だが、その80mの中に、おおよそ12mの全長の大型トラックが、4m間隔で4台入ってしまう。さらにちょっとだけ増やして車間84mにすれば5台入れ、従来の2台しか走れない車間で、7台も走れる計算になるのである。ただし、隊列が長くなると燃費効率が落ちてくるので、10台はあり得ないとし、現在のところは3~4台での隊列走行が想定されている。何はともあれ、走れる台数が増えることは事実で、効率化がそれだけ進むというわけだ。

だいたい同じ地点での車間の違い。画像2(左)はおおよそ20mで、画像3は4m。車間20mあれば、全長12mのトラックが前後に4mずつの車間を取っても間に1台入れてしまう

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動画1。専用コースなので幅が広いこともあるし、スピード感があまりないかも知れないが、時速80kmで車間4mの隊列走行を実施中。生で見ると、この速度でこの車間距離は驚異的
動画2。コース上の陸橋から撮影。見事にスリップストリーム状態の車間4mの隊列走行。まるで列車のようにも見えてしまう

そして空気抵抗の削減とは、トラック1台1台のデザインの話ではない。これは隊列を組むことで、先頭車両は空気抵抗が単独で走るのと変わらないので燃費も同程度だが、中間の車両は風を切らずに走れるのでそれだけ燃費がよくなるということである。いわば、モータースポーツでいうところのスリップストリームやドラフティングと呼ばれるものと同じ理屈だ。また最後尾の車両は中間車両ほどではないが、それでも先頭車両よりは燃費がよく、全車の平均を取れば、それぞれが単独で走った時よりも燃費がよくなるというわけのである。ちなみに、時速80kmでもって3台が4m間隔で走ると、約15%の燃費向上になるという(画像4・5)。

画像4。左の2つは、数値流体シミュレーションによる速度コンター図(上の黄)と圧力コンター図(下の赤)。右上の縦棒グラフは、3台のCD相対値、右下は車間距離に対する燃費向上率のグラフ

画像5。実際に走行した際の燃費。先頭車両はあまりよくないが、中間車と最後尾車がいいので、平均すると4m強で15%以上の数値が出ている

最後のドライバーの運転負荷軽減および安全性の向上とは、自動運転にすることで当然ドライバーの負荷が減るのはいうまでもない(画像6、動画3・4)。前走車と一定の距離を保ちつつ同速度で追走するクルーズコントロールと呼ばれる技術は、すでに一般乗用車にも搭載されているが、今回は先頭車両も自動運転を行う。しかも、レーンチェンジなどを行っても2台目以降がきちんと追随するので、まとめて3台、4台と列車のようにトラックを運転しているようなイメージになる。

画像6。手放しで実際に自動運転に任せて走っている様子。決して、一瞬だけ手を離した綱渡り的な曲芸運転ではない

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動画3。自動操舵の様子。ドライバーが手放し状態のまま、コーナーを旋回中
動画4。自動操舵やアクセル・ブレーキ操作なしでの運転の様子を見ることが可能

なお、このアクセルとステアリングの両方を自動制御するのは、現状の道交法では認められていない。今回の技術が一般で利用されるようになるには、その改正を行わないとならず、その点は今後の課題だ。しかし、米国が国際法に従わない旨を決定し、2012年にはネバダ州でGoogleがロボットカーとしてナンバープレートを初めて交付され、今後は日本も変わっていくと思われる(日本の行政はこの手のことは腰が重いのが少し心配だが)。

話がずれてしまったので自動運転に戻すと、この4mという車間で時速80kmで走っていた場合、もし前走車が0.5Gというフルブレーキをかけた場合、人間の反応速度ではまず追突を避けるのは不可能である。おそらく、いつ前走車がフルブレーキをかけるか事前にわかっていたとしても、必ず「前走車がブレーキを踏んだのを見てから踏む」という条件だったら、無理な話だろう。

しかし、今回の技術では20msのタイムラグで次々と後続車に前走車がフルブレーキをかけた情報が伝わる仕組みなので、状況によっては間隔が2mまで詰まることはあるが、追突は起きない。通常の余裕を持ったブレーキなら、4m間隔を保ったまま全車が停車できるという、もはや間に見えない突っ張り棒でもあるか、運転手同士が連絡を取り合って「せーの!」でブレーキを踏んでいるのかと思えてしまうほどなのである(動画3~4)。

動画
動画5。時速80kmで車間4mの隊列走行のまま、全車がほぼ同時にブレーキングし、距離はほぼ変わらない(肉眼ではわからない)ままきれいに停車する様子をバスから撮影
動画6。4m間隔を維持したままブレーキングをコース脇から撮影。列車のように実は連結しているのではないかというぐらい、その間隔のままに平然と停車

そもそも、大型トラックで時速80kmをキープしながら、4m間隔で前の大型トラックに長時間着いていくという時点で、そんな緊張感に耐えられる人間はまずいないと思う。実際に4mがどれだけ短いかというと、もはや普通のセダンが間に割り込めないことでわかってもらえるのではないだろうか(画像7)。ミニバンやステーションワゴンといった車長の長い車ではなく、5人乗りのセダンですら4m以上あるので、間に入れないのである。せいぜい軽自動車が入れるぐらいで、そんな距離である4mを維持して時速80kmで走るのは、もはや狂気の沙汰というわけだ。

実際に、4m間隔の隊列走行をするトラックを、並走するバスの車内やコース脇から見学したのだが、前述したように大型トラックの形をした貨車にしか見えない(画像8)。あまりにもきれいに等間隔で走っていくしそのまま止まるし、正直いってあまりにも整然としすぎていて、逆にその凄さがピンと来ないというのが本音。本当に何かで間をつないでいるようにしか見えないのである。

画像7。4mの車間。シャッタースピードが速くて止まって見えるが、実際には時速80kmで走行中。最後にこの模様の動画がある

画像8。陸橋の上から撮影。4m車間をこうして正面上方から見ると、もはや連結されて走っているようにしか見えない

ただ、どれだけほかに走っている車がなく、信号もない専用コースだからとはいえ、さらにもしドライバー同士で綿密にタイミングを合わせているのだとしても、カースタントドライバーが運転していたって、時速80kmで車間4mを維持し続けるという圧迫感はきついはずである(画像9・10)。人が運転していたら、ひとつ間違えたら死亡事故にもつながりかねないわけで、やはりこの技術は驚異的で、ある意味では、ドライビングにおいて自動運転が人を超えた、といえるのではないだろうか。

画像9。実際には車間4mでの試乗は行われていないが、おそらくはこのぐらいの距離感だろう。なお、青い2つのテールランプはCACCの状態を後方車両ドライバーに伝えるランプ

画像10。参考までに、こちらは停車中したものだが、車間2mぐらいがこんな感じ。どちらにしろ、時速80kmで10tの大型車が手動運転でこの車間でもって走っていいわけがない