迫力の低音を鳴らす「SR-Bass」
スピーカーの技術解説は、ヤマハ エレクトロニクス事業本部 技術開発室 技師捕の新井 明氏が行った。
一般的にパッシブラジエータは、磁石や駆動系を持たない振動板のみで構成されるユニット(ドロンコーン)であり、スピーカー筐体内部の空気振動とその共振を利用して低音を引き出す。
しかし、振動板を硬くするとそのぶん重量が増し、今度はその重い振動板を支えるために堅いエッジが必要となり、小型化の妨げとなる。
SR-Bassもパッシブラジエータの一種だが、ヤマハは1枚の板にU字型の切り込みを入れた「スウィングラジエータ」を独自に開発。一端を筐体に完全固定し、U字部分(振動端)を前後に振動させてパッシブラジエータとしての役割を果たす基本構造を採用することで、効率良く低音を鳴らすことができる。
「振動板は自立するため、エッジに強く支えられる必要はない。その結果、エッジ部分にゴムのような柔らかい素材を利用できるため、効率的に振動することがメリット」(新井氏)。
SR-Bassを搭載した最初の製品「NX-A01」は、2006年2月にYAMAHAから発売。この一辺約9cmのキューブ型スピーカーは、サイズから期待される以上の低音が出るとして高評価を獲得、YAMAHA製デスクトップオーディオ商品群を充実させるきっかけにもなったという。
やがて音楽の入り口としてのPCの存在感が増し、NECとヤマハはPC内蔵スピーカーでの協業をスタートさせる。
「最初は水冷型デスクトップ機の音質向上を図るべく、内容積80ccのSR-Bassスピーカーを試作したが、明確な効果が現れなかった。そこで、5.5cmウーハーと4cmのサテライトスピーカーを搭載した容積430ccの2.1chシステムを用意した」(新井氏)。
このシステムをNECの技術陣が高く評価、既存の小型スピーカーを置き換えるのではなく、本格的なスピーカーを搭載しようという機運が高まったという。
折からデスクトップ機はディスプレイ一体型が主流となり、ディスプレイを支える台座の部分にスピーカーを搭載する方向性も固まった。「VALUSTAR W」では、左右のサテライトスピーカーはディスプレイ直下、ウーハーは足の裏側部分に実装されている。「振動を抑えるなどの点で、NECの設計チームは苦労されたと思う」(新井氏)。