必要最小限のパケットを短いパルスで

スマートウオッチ製品化の道は断たれたかと思われたが、当時唯一、シチズンが製品化にこぎ着けた「iVERT」を発売。また、携帯キャリアの一つだったボーダフォンと、ハードメーカーのシャープがBluetoothのプロファイルをサポートしたことで、市場から携帯電話と連携する時計の火が完全に消えることはなかった。そして、カシオにも新たな動きが訪れる。

道蔦氏「ちょうどその頃、ノキアの『Wibree(ワイブリー)』という2.4GHz対応の通信技術があって、これが低消費電力で面白いという話を耳にしたのです。それならと、Wibreeのコンソーシアムに入りました。ここではカシオも中心となって活動していたのですが、2007年6月に、ノキアがWibreeのコアテクノロジーを無償でBluetooth SIGに提供することになった。

Bluetooth SIGに『PUID(パーソナルユーザーインタフェースデバイス)』というワーキンググループを作り、カシオもそこで活動を続けることになったのです。その副議長を私が務めさせていただいて、もう6年になりますね」

Bluetooth SIGの記者説明会でスピーチする道蔦氏(写真左)と、展示されていた「GB-6900」(写真右)

―― PUIDのワーキンググループを作られた時点では、Bluetoothのバージョンはいくつだったのですか?

道蔦氏「3.0でしたが、私たちが規格化しようとしていた通信の仕組みは、Bluetooth v4.0での実装を目指していました。というのも、Bluetooth 2.2までと、3.0や4.0では、それぞれ中身がまったく違うのです。2.2までは、私たちがクラシックと呼ぶ、いわゆる普通のBluetooth。3.0ではWi-Fiの一部を取り込み、加えて4.0では『LE(Low Energy)』という低消費電力の通信を時分割で行う技術が入ります。時計用の通信には、この低電力通信が必須でしたから」

Bluetooth v4.0は、必要最小限のパケットを短いパルスでやりとりする点が「勘所」なのだという。通信タームはおよそ1.6秒に1回。1回の通信時間は数十ミリ秒で、普段は15ミリ秒程度とのこと。これを間欠的に行って、情報の有無を見て通信を維持している。

一方の時計側は、ごく短時間の通信から着信情報などを取得。もし取得データがあればバイブレーションしたり、メールの件名や送信者名を表示する。Bluetoothの電波出力そのものは、Bluetooth 2.2までのハンズフリー通話や音楽再生の通信と同じなので、電波の届く範囲も一緒。ただし通信時間が非常に短いので、平均すると極めて低消費電力なのだ。道蔦氏らは、この通信の仕組みを2~3年かけて作ってきたのである。

GB-5600AA-1AJF

GB-5600AA-1JF

GB-5600AA-5JF

GB-5600AA-7JF

―― 開発にかかった数年間で、仕様の変化などはなかったのですか?

道蔦氏「仕様は変わっていませんが、当時は携帯電話だったものがスマートフォンに変わったというのはあります。昔はいわゆるフィーチャーフォンだったので、携帯電話のハードウェアにBluetoothプロファイルを組み込んでもらう必要がありました。各メーカーやキャリアに協力してもらうことが最優先だったのです。

その後、iPhone 4S以降がOSレベルでBluetooth v4.0に対応してくれたのは大きかったですね。おかげで、時計用のBluetoothプロファイルを組み込んだアプリケーションさえ作れば、時計との通信に対応できることになりましたから。一方、Androidではまだメーカーや端末ごとの実装ですが、将来的にはOSに実装される方向で話を進めています。iOSはサポートしているのに、Androidがやらないわけにはいかないでしょうと期待しています(笑)」

GB-6900AA-1JF

GB-6900AA-1BJF

GB-6900AA-2JF

GB-6900AA-5JF

GB-6900AA-7JF

次ページ: 米ラスベガス開催のINTERNATIONAL CES 2011で初披露