Office 2013が正式に発売され、Windows 8がサポートするOfficeシリーズは「Office 2013」「Office 2010」「the 2007 Microsoft Office system」の三つであることが「Office IT Pro Blog」で発表されたが、より興味深いのはDellの株式非公開化と、それに伴うMicrosoftの対応だ。今週のレポートは、MicrosoftがDellに行った20億ドルの融資理由について愚考する。

Dellが株式を非公開化する理由

IT系ニュース媒体だけでなく、経済系ニュースも大きく話題に取り上げているDellの株式非公開化。ご存じない方のために概要を説明すると、Dellの会長兼最高経営責任者であるMichael Dell(マイケル・デル)氏は、世界的な投資ファンドであるSilver Lake(シルバーレイク)、自身の投資会社などと協力し、同社を総額244億ドル(約2兆2,000億円:ドル円90円で換算)で買収し、非上場会社化するというものだ(プレスリリース:[1](http://content.dell.com/us/en/corp/d/secure/acq-dell-silverlake)、2)。

もともとDell氏は、大学生時代にIBM PCの問題点を調べ上げ、大量のハードウェアを安く仕入れては、安価にユーザーに提供したという。また、販売業者から飽和しつつあった在庫を引き取り、再び安価で販売を行ったそうだ。この成功に自信を持ったDell氏は当時在籍していた大学を辞めて「PC's Limited」を起業。これが1984年の話である(図01)。

図01 Dellの会長兼最高経営責任者であるMichael Dell(マイケル・デル)氏

このときDell氏が学んだのが、過剰在庫のIBM PCや中古のIBM PCを強化するよりも、自社でパーソナルコンピューターを組み立てて販売した方が正しいのではないかという点。つまり、流通業者を排除し、自社から直接顧客にパーソナルコンピューターを売る"直販方式"だ。1988年には株式上場に至り、コンピューター業界の直販方式をGateway 2000(現在はAcerが買収済み)と共にリードしてきた。管理職を中心としたスタッフの強化や、インターネットの普及により同社の売り上げは伸び続け、1990年代には米国のFortune(フォーチュン)誌が全米上位500社の総収入に基づいたランキングリスト「Fortune 500」に名を連ねたこともある。

個人向けコンピューター以外にも、法人向けコンピューターやサーバー、ストレージなどさまざまな分野に進出し、2000年代前半は世界トップシェアを誇っていた。だが、米調査会社であるIDCによると、2012年第4四半期の個人・法人向けコンピューター出荷シェアは、Hewlett-Packard(ヒューレット・パッカード:以下、HP)が首位の16.7パーセント。Dellは10.6パーセントの三位に甘んじている。同調査結果によると、米国のパーソナルコンピューター市場は前年同期比で4.5パーセント減、2012年通年では前年比で7パーセント減。さらにiOSやAndroidを搭載したタブレット型コンピューターの流行が、コンピューター市場をより冷え込ませているのだろう(図02)。

図02 2012年通年における世界のコンピューター出荷台数上位5社。単位は千台(出典:IDC

これまでのビジネスモデルが通用しなくなったことを踏まえ、Dell氏は「上場に伴う制約に縛られず、戦略や投資を進める時間と柔軟性を確保できる」と株式非公開化に至った理由を述べている。この発表に業界大手のHPは声明を発表。本誌でも報じられているため詳細は割愛するが、DellのLBO(レバレッジドバイアウト)を批判しつつも、ビジネスチャンスであることを認めている。