標準IMクライアントとなるSkype

群雄割拠の時代に存在を大きくしたのが、音声通話を主軸とした「Skype(スカイプ)」である。2003年8月に登場したSkypeはP2Pを利用することで、低速な回線でも高音質の通話を実現し、ユーザーの興味を集めていた。他のIMクライアントも音声通話機能は備えていたものの実装形式が異なるため、当時は音声通話ならSkypeがベストな選択肢だった。

2000年中頃までは、日本国内でも多くのコンピューターメーカーがバンドルや周辺機器をリリースするなど、盛り上がりを見せていたので、記憶している方も少なくないだろう。Skypeは現在でも高い評価を得ているが、互いのクライアントバージョンが異なると不安定になる面や、トラフィック増大に対する懸念や批判があがるなど、順風満帆とは言い難い面も拭いきれない。

2005年10月には、米国のインターネットオークションを手がけるeBay(イーベイ)がSkype社を買収したものの、利益につながらないという判断から2009年に投資家グループへ株式の半分以上を売却。そして、2011年10月にはMicrosoftによる買収が行われ現在に至っている。ご存じのとおりデスクトップアプリ版だけでなく、Windowsストアアプリ版もリリースし、Windows 8でもポピュラーなIMクライアントして活用している方も多いだろう(図05~06)。

図05 デスクトップアプリ版「Skype」。使用スタイルは以前と変わらない

図06 Windowsストアアプリ版「Skype」も機能的には一緒だが、連絡先はタイルとして並ぶ

当初Microsoftの買収は、さまざまな波紋と臆測が飛び交った。中でも興味深いのは「コンピューター帝国の興亡」を執筆したIT系ジャーナリストであるRobert X. Cringely(ロバート・X・クリンジリー)氏の記事である。Cringely氏は「GoogleによるSkype買収を阻止するため、MicrosoftがSkypeを買った」と述べ、Microsoftが新たに開拓使用としている新分野への一石を投じたのだろうと分析した。

巷では85億ドルという買収金額は、同社CEOであるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏のビジネス判断が間違っているという意見もあがったが、Skype社の買収はBill Gates(ビル・ゲイツ)氏が大きく後押ししたと、BBCが行った自身へのインタビューでも語っている。これらの事柄やWindows 8のモダンUIといった各要素を踏まえると、Ballmer氏やGates氏がポストPC時代の自社を熟慮した結果、買収に至ったことを理解できるだろう。

話をIMクライアントであるSkypeに戻そう。筆者が昨年寄稿した記事でも述べたように、Windows 8の標準IMクライアントはSkypeが担うことになり、Windows Live Messengerサービスの終了は既に決まっていた。海外のニュースメディアであるThe Next Webの記事によると、Skypeへの移行をうながす電子メールの配信が始まり、現在のWindows Live Messengerは3月15日に廃止に至るという。ただし、中国では同国の通信企業がIMネットワークを運営しているため、例外的にWindows Live Messengerの提供が継続される。なお、Windows Live Messengerの公式ページも既にダウンロードリンクなどは外され、Skypeへの移行をうながす内容に変更されていた(図07)。

図07 Windows Live Messengerの公式ページは既に廃止通知が行われている

現在提供されているデスクトップアプリSkypeでは、既存のSkypeアカウントとmicrosoftアカウントの統合も可能らしく、SkypeのFAQページで具体的な方法を説明している。筆者は日常的にSkypeを使用していないため、IMクライアントの性能を評価することはできないが、MSN Messengerから続く長い歴史は幕を下ろすこととなったのは明らかだ。

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やTwitterに代表されるミニブログなど多様なツールの登場で、コミュニケーションのあり方も多様化するなか、今後Skypeが本当の意味で標準IMクライアントとなり、多くのユーザーに愛されるかは、Skypeチームの努力やMicrosoftのサポート体制にかかっている。IMクライアントをビジネスツールやコミュニケーションツールとして活用している方は、来期以降の同社に注目すべきだろう。

阿久津良和(Cactus