東京都医学総合研究所は1月15日、ショウジョウバエを用いて、糖タンパク質の一種である「プロテオグリカン」が、神経筋接合部のシナプス前部と後部の発達を同調させていることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同研究所の神村圭亮 研究員、前田信明 副参事研究員らによるもので、詳細は米国科学雑誌「The Journal of Cell Biology」オンライン版に掲載された。

シナプスの形成は、シナプス前部(神経軸索)とシナプス後部(樹状突起や筋肉など)がさまざまなシグナル分子を正しくやり取りすることによって制御されているが、こうしたシグナル分子の交換に異常が生じると、シナプスの伝達が破綻し、学習や記憶、運動能力が低下することとなる。これまでの研究において、シナプスの形成における重要な働きをするシグナル分子がいくつか報告されているが、それらがどのようなメカニズムによって、シナプス前部とシナプス後部にバランス良く配分されるのかは分かっていなかった。

プロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸やヘパラン硫酸などの長い糖鎖が結合した糖タンパク質で、細胞表面をおおう重要な分子群であり、研究グループは今回、そのプロテオグリカンの一種である「パールカン」を欠失したショウジョウバエの神経筋シナプスの詳細な解析を実施した。

その結果、この変異動物では、シナプス前部(運動ニューロン側)が過剰形成される一方、シナプス後部(筋肉側)は低形成を示し、著しく運動能力が低下していることが見出され、シナプス前部とシナプス後部の発達が同調して進行していないことが示された。

次に、これまでの研究にて、運動ニューロンが分泌するシグナル分子「Wnt」が、神経筋シナプスの発達に重要な役割を果たしていることが報告されていることから、パールカン欠失変異体のWntシグナルの解析を行ったところ、運動ニューロンには過剰なWntシグナルが伝わることによってシナプス前部が過剰形成される一方、筋細胞にはWnt分子が効率よく配分されないためにシナプス後部の低形成が起こることが明らかとなった。この結果から、パールカンは、運動ニューロンと筋細胞間でのWntシグナルの配分を調節することによって、シナプス前後部の発達を同調させているものと考えられると研究グループでは説明している。

なお、プロテオグリカンは糖鎖を介して非常に多くの分子と相互作用することが知られており、中には、BMP(骨形成因子)やWnt、ジストログリカンなどの神経・筋疾患やがんなどに関与する分子が多く含まれているほか、プロテオグリカンそのものの異常もさまざまな疾患を引き起こすことも知られている。そのため研究グループでは、プロテオグリカンの機能を解析することは疾患の病態解明のために重要であり、今後もプロテオグリカンの解析を継続していくことで、そうした疾患の病因や病態の解明が進むことが期待されるとコメントしている。

神経筋接合部の発達におけるパールカン(プロテオグリカン)の機能イメージ