米Hewlett-Packardのエリック・チェン氏(プリンティング&パーソナルシステムズ PC GBU インダストリアル・デザインチーム マネージャー)は、同社において工業デザイン制作の責任者を務め、法人向けノートPCのデザイン開発もリードする。11月15日に日本ヒューレット・パッカード本社で、来日中のチェン氏が法人向けノートPCの「デザイン」についてプレゼンテーションを行った。

米Hewlett-Packardのエリック・チェン氏

チェン氏の経歴を簡単に紹介すると、米カリフォルニア州の著名なデザイン大学、アート・センター・カレッジ・オブ・デザインで工業デザインの博士号を取得し、デザインには14年以上も携わっている。HPには2009年から所属しており、いくつものアワードを受賞した法人向けノートPC「HP ProBook 5330m Notebook PC」などのデザインを担当。2011年から2012年には、同社の法人向けノートPCを「次世代のデザイン」に進化させている。

これまで「法人向けノートPCのデザイン」がクローズアップされることはあまりなかったが、HPのノートPC全般がデザイン的な特徴を持っているのは事実。日本ヒューレット・パッカード 取締役 副社長執行役員 プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括 岡隆史氏によると、ビジネスユーザーが使うノートPCに対して「デザイン」や「カッコイイ」を求めるニーズが高まっているとのこと。例えば、個人で気に入ったデバイスを会社に持ち込み(許可などの制約はあると思うが)、仕事用に使っているユーザーも多いだろう。法人向けノートPCと言えば、頑丈、セキュリティ、機能性などがキーワードだったが、HPでは今後、デザインにも大きく注力していくスタンスだ。

薄さとデザインを追求しつつも、ユーザーに必要な機能は外さない

HP EliteBook Folio 9470m

さて、チェン氏が最初に取り出したのは、日本で10月18日に発表されたビジネス向けの14型Ultrabook「HP EliteBook Folio 9470m」。概要は別記事「日本HP、高耐久性とバッテリ駆動約7.5時間の法人向け14型Ultrabook」を参照いただきたい。

Ultrabookということで「薄く」設計しなければならないが、ビジネスユーザーのことを考えると外せない機能やスペックがあり、それらをきちんと製品に搭載しつつ、ビジネスで使い続けられる製品の開発を目指しているという。具体例としてチェン氏は、アップルのMacBook Airとの比較を挙げた。HP EliteBook Folio 9470mは、MacBook Airよりも「1.5mm」だけ厚みを持たせることで、4G LTEの通信機能や7mm厚HDDの大容量ストレージ、Gigabit Ethernet対応有線LAN、D-Sub/DisplayPort出力、メモリカードリーダー、交換可能なバッテリパック、防水キーボードなどを搭載できている。こうした使い勝手の良さを盛り込むには「+1.5mm」の厚みが必要だったという。

HP EliteBook Folio 9470mの高さは18.5mm

MacBook Airより1.5mm厚い

MacBook Airより1.5mm厚くしたことで数々の内蔵機能を実現

また、美しいデザインだけでなく頑丈さを望むビジネスユーザーが多いので、PC本体の表面加工は重視しているとした。HP EliteBook Folio 9470mは4層ペイントを採用しており、最下層は頑丈なペイント素材、2層目と3層目は航空機にも使われている軽量かつ頑丈な素材、そして表面はユーザーが手に持って心地いいソフトタッチペイントという構造だ。「本体サイズ、薄さ、頑丈さのバランスを見極めるのが大切なこと」(チェン氏)。

4層構造の塗装

ボディ全体はマグネシウム合金

法人向けWindows 8タブレットは、どのようにデザインされたか

続いて紹介されたのは、2013年2月以降に発売予定となっている、Windows 8搭載の法人向け10.1型タブレット「HP ElitePad 900」だ。こちらも概要は発表会のレポート記事「日本HPの法人向けWindows 8搭載10.1型タブレット発表会 - 個人でも欲しくなるクールでタフな1台」、および「日本HP、厚み9.2mm/重さ約680gでタフ設計の法人向け10.1型Win 8タブレット」を参照いただきたい。

HP ElitePad 900(写真左)を持ち、デザインや設計について語るチェン氏

コンシューマ向けとビジネス向けではニーズが異なり、しかも互いのニーズが相反することが多い

「最初のチャレンジは、どうやってデザインするかではなく、どうやってユーザーのニーズに応えるかでした。ビジネスユーザーのニーズには、機能、そしてデザイン性や薄さなど、相反するものが存在します。それらをどのように実現するかが重要でした」(チェン氏)。

冒頭でも述べたように、ビジネス用途とはいえデザイン的に美しい製品が選ばれる傾向が強くなっている。一般的には、薄さにフォーカスした製品、量産しやすい製品といった方向になりがちだが、ビジネスユースに必要な機能やパーツを入れ込むには、デザイン段階から綿密に設計する必要があるという。

興味深かったのは、従来のビジネス向けノートPCは合理性に重きを置く「左脳的」なデザインだったのに対し、HP ElitePad 900はユーザーの感性を刺激する「右脳的」なデザインに力を入れたという話題だ。チェン氏は「ビジネス向けながらコンシューマの視点」と語り、さらに「修理しやすい」点にもフォーカスしたとする。HP ElitePad 900は、修理の担当者が内部アクセスしやすく設計されており、壊れた部分だけを簡単に交換できるようになっている。

ビジネス向けのノートPCは従来、機能性や合理性を重視する「左脳的」なデザインだったが…

HP ElitePad 900をはじめ、今後は感性の「右脳的」な思考を採り入れ、左脳的なデザインと融合した製品に力を入れていくという

もう1つ、HP ElitePad 900は専用の周辺デバイスを含めた「システム」が大きな特徴だ。クレードル型の専用ドッキングステーションは、USB×4ポートやHDMI/D-Sub出力、有線LANポートなどを備える。さらに、HP ElitePad 900の上下から装着する専用ケースの「SMART JACKET」を導入した。現状では、追加バッテリを持つ「バッテリージャケット」と、HP ElitePad 900と合体させることでクラムシェル型ノートPCのようになる「キーボードジャケット」が用意される予定。どちらのジャケットも、USB×2ポート、HDMI出力、SDメモリーカードリーダーなどを備え、ジャケットを取り付けたままでも、上述のドッキングステーションに装着できる。なお、バッテリジャケットを利用した場合、最長約18時間のバッテリ駆動時間を予定。バッテリ使用はジャケット・本体の順、充電は本体・ジャケットの順と、こちらも理にかなっている。

ビジネス用途の心得とコンシューマ用途のフレンドリーさを併せ持つ

HP ElitePad 900はきめ細かなデザイン

microSDスロットとSIMスロット(日本版では未定)

タッチパネル液晶でさまざまな操作が可能

メンテナンス性も高い

HP ElitePad 900を拡張する「SMART JACKET」

ジャケットは各種インタフェースを装備

バッテリジャケットでバッテリ駆動時間を約8時間も延ばせる

ジャケットを2つに分離し、本体の上下からスライドさせて装着

デュアルモニタも手軽に実現

クレードル型のドッキングステーションも各種インタフェースを搭載

ジャケットなしのHP ElitePad 900(写真左)、ジャケットありのHP ElitePad 900(写真右)

スタイラスはペン先が細く使いやすい

キーボードジャケットは物理的なコネクタ接続。Bluetooth接続より反応性が良い

キーボードジャケットも各種インタフェースを搭載

HP ElitePad 900とオプション類による「エコシステム」

最後の質疑応答でチェン氏に聞いてみたのだが、IT/PC関連に限らず身の回り全般で、これまでデザイン面で影響を受けたプロダクトは「自転車」だそうだ。また、プロダクトデザイナーとして製品を作っていて、「多くのスタッフやテストユーザーと仕事をする中で、さまざまなアイディアや要望、ユーザー視点のニーズが集まり、1つ1つを実現していくプロセスが本当に楽しかった」(チェン氏)と語ってくれた。