類似アプリの機能を1つに包含した「Passbook」

個人的にPassbookで興味深いと思ったことの1つが、「写真9~12」にあるようなホテルのチェックインカードだ。おそらく予約情報をベースにチェックインに必要な情報が記されており、フロントに見せるとすぐに鍵(カードキー)を入手できるようなシステムになっているとみられる(必要情報はすでに登録が済んでいるため)。同様にエクスプレス・チェックアウトも可能で、手間いらずというわけだ。必要がなくなったチェックインカードは削除することができ、シュレッダーのアニメーションですぐにPassbookのホルダーから消滅する。つまり必要があるときだけPassbook上にカードとして出現し、必要がなくなったらすぐに削除するという、非常にシンプルな設計だ。1つだけ残念なのが「部屋の鍵だけは対面で入手する必要がある」という点で、各部屋の入り口に二次元バーコードリーダーのようなものが用意されない限り、「カード状のものはすべて電子的にストックする」というWalletサービスのメリットを活かせない。

上段 [写真9] [写真10] 下段 [写真11] [写真12] ホテルのカードもPassbookに。ただしルームキーではなく、チェックイン/チェックアウトを迅速に行うためのエクスプレスカード的なものらしい。ホテルを出れば用済みなので削除すると、シュレッダーが出現してPassbookのホルダーから消滅する

また電子的な特性として、リアルタイムでのアップデート情報を把握できるというのがある。それを示したのが「写真13」、「写真14」、「写真15」のサンプルで、例えば飛行機の搭乗券など、リアルタイムで変化する搭乗ゲート番号や出発時間がPassbook上でアップデートされ、適時ポップアップ形式でユーザーに知らせてくれる。ポップアップだけでなくPassbook上の電子チケットの情報もアップデートされているため、紙のチケットでは逐次情報スクリーンで確認しなければならないものが、手元の端末の確認だけで済むのだ。

[写真13] [写真14] [写真15] Passbookで興味深いのは、つねにバックグラウンドで情報のアップデートを行っており、例えば航空チケットで搭乗する便のゲートや時間が変更になった場合、それをアップデートしてポップアップで表示する。ユーザーはそれを確認してロックスクリーンを解除するだけで、すぐにゲート番号がアップデートされた搭乗券を呼び出せる。画面は先ほどまで102番だったゲート番号が51番に変更になっている

だが、これら機能は別にPassbookで新たに実装されたものではなく、もともと個々のiOSアプリの中で実現されていたものだ。著名なのはAmerican AirlinesやDelta Air Linesなどで、最新のフライト情報や空港設備情報、駐車場リマインダなどの機能のほか、「モバイルボーディングパス」という形で二次元バーコードの表示された搭乗券を出す機能を付与されており、これをゲートで提示することでカウンターやKIOSK端末に並ばずとも、スムーズにゲートを通過できることをセールスポイントにしていた。アプリの情報量は多く、例えばDeltaでいえばアップグレード/スタンバイリストの自分の現在の順位がリアルタイムで確認できたりと、至れり尽くせりだ。

今回搭乗券のサンプルとして紹介されたUnited Airlinesは、もともとはこうしたアプリを提供しておらず、インターネットのWebチェックイン時に「モバイル端末に電子チケットを送信する」という機能を使ってメールへの添付ファイル形式で表示する方式を採っていた。だがContinental Airlinesとの統合を機に今年より「United Airlines」というiOSアプリの提供を開始し、前述2社のようなアプリ機能が利用できるようになった。逐次アップデートは添付ファイル時代はできなかったが、現在ではアプリの定期アップデートによりリアルタイムでのゲート番号や出発時刻の確認ができる。

Passbookに関して重要なのは、同アプリがこうした機能を初めて実装したのではなく、「これまで同種の機能がアプリとしてバラバラに提供されていたものを1つにまとめた」ことにある。ユーザーはこれまで必要に応じて個々のアプリを別個に呼び出していたわけで、これがわかりやすい形で整理され、すぐに利用できるのであれば非常に便利だ。その意味でPassbookは、「これまでバラバラだったサブスクリプションを1つにまとめた"Newsstand"」の位置付けに近い。さらに重要なのは、個々の実装はアプリを提供するサービス事業者各社に委ねられているわけであり、Appleとしては方針を示しているだけに過ぎない。つまり端的にいえば「Appleが号令をかけるだけで勝手にサービス各社がインプリメントを進める」状態であり、サービスが自然とiOSに集まってくるのだ。これはパートナーと必死に交渉してWalletサービス実装を進める各社、特にGoogleと比較して大きなアドバンテージだと筆者は考えている。アプリのエコシステム自体はAndroidにもあるものだが、まだこういった段階には達していないと思われる。

将来的なNFC実装の可能性

ここからは本稿のもう1つのテーマである「NFC (Near Field Communications)」への対応だ。すでにお気付きかもしれないが、冒頭で挙げた「Google Wallet」「V.me」「PayPass Wallet」はどれもNFC対応端末での実装を前提にしており、Walletで提供されるサービスとNFCは非常に密接な関係にある。VisaやMasterCardはクレジットカード会社であり、カード情報をNFCのセキュアエレメント(SE)に記録し、この情報を使って非接触無線通信によるタッチ技術、つまりFeliCaベースのSuicaやEddyといったカードと同様に店舗での決済を行う技術の普及を目指し、その一環としてスマートフォンへの実装や、Walletサービスの提供を行っている。きっかけは「店頭での気軽な少額決済実現」であり、Walletサービスは付随的なものだ。Google Walletも最初こそ少額決済でスタートしているものの、その野望は幾分か大きく、前述のクーポン情報の網羅のほか、AppleがPassbookでの実装を目指している電子搭乗券やストアカードの包含、さらには車や家の鍵など、あらゆる電子情報をWalletに含もうとしている。