低カロリーなのに肥満になる - その時、体内では何が起きているのか
食品レベルでこの問題を考えると、抗酸化物質や脂質代謝物質、糖代謝改善物質などがこれまでに登場してきたが、近年、遺伝子の転写活性を調節する物質によるアンチエイジング食品の可能性が言われるようになってきており、実際に線虫にD-プシコースとD-アロースを含んだ餌を与えて研究を行ったところ、含有の有無でD-プシコース含有の場合で20%、D-アロース含有の場合で26%の寿命延長が確認されたという。また、抗酸化酵素(SODとカタラーゼ)の発現量と酵素活性も上昇していることが確認されていることから、酸化ストレスに対する耐性が向上したのではないかという。
サルを用いた10年以上の長期実験で、カロリーの取りすぎによる影響で糖尿病や心臓病で死亡する確率が高まるという調査に加え、2011年には脂質代謝が寿命と関連するという論文発表がなされた。また線虫に希少糖を与えると、寿命の延長効果が確認された |
これらがRSSに含有されるが、RSSには糖としてブドウ糖と果糖も含まれてる。ブドウ糖も果糖も異性化糖であり、エネルギーになることが知られているが、研究により食欲に関係することがわかってきており(ブドウ糖は血糖値を上昇させるが、果糖は血糖値を上昇させない)、RSSではブドウ糖で適正なエネルギー代謝を図り、果糖で良質な甘味と、そして希少糖で体脂肪の最適化をはかることがコンセプトとなっている。
2002年に果糖が肥満を引き起こすという論文が発表されたほか、2004年には異性化糖の消費による糖尿病と肥満の増加に相関関係があるといった論文が発表された。これらの論文が意味するのは、ブドウ糖は解糖系に入ると、これ以上余分やエネルギーはいらないという指令が出るが、果糖で入るとその指令が止まり、結果として余剰したエネルギーが脂肪に回されるというもの。また2009年にはインスリンの分泌に関して、高甘味度甘味料(砂糖の数百~数千倍の甘味を有する物質)をほかのものと一緒に摂取すると、インスリンの過剰分泌が促されるとの報告が出されたほか、2010年には低エネルギー甘味はエネルギー摂取を増やすというという報告も出ている。
これは疲労した際にブドウ糖が減少し、甘いものが欲しくなるが、ここで高感度甘味料を摂取すると、低カロリーでインスリンの分泌も減るため、満足感を得られずにさらに食べてしまうということが要因のようで、これに対し、同社などの研究グループは食欲などを考えた組み合わせなどを考えていく必要が出てきたと考え、甘味料に求められる、甘さによる満足感を与えながら、カロリーや食欲をどうやって調節していくかを検討した結果、希少糖を用いることを思いつき、今回のシロップ開発を行ったという。
RSSの12日間摂取で体重/BMI/体脂肪率のすべてが減少
動物治験の結果、でんぷんを食べさせたときの内臓脂肪と、それを異性化糖に置き換えたときの内臓脂肪は増加傾向が見られたが、さらに希少糖を加えると、内臓脂肪の低減が見られたという。このことは例えばファーストフードとして異性化糖が入ったハンバーガーやドリンクを飲むと肥満は進むが、そこに希少糖を入れることで肥満を抑制することが示されたものであった。
そこで、さらに人体に対する試験を実施。普通体重~肥満度1の健常成人34名(男女各17名、平均年齢42.0歳、平均体重70.5kg、平均BMI25.8kg/m2、平均体脂肪率28.2%)を対象に1日1本のRSS(30g)を朝食後と、同等カロリーの試験食品を12日間摂取してもらった結果を比較したところ、摂取した方は体重が平均1.8kg、BMIが0.7kg/m2、体脂肪率が1.7%それぞれ減少したことが確認された。また、レプチンが有意に増加したほか、レチノール結合たんぱく質が有意に減少したという。ちなみにこの試験は第3者機関の試験による結果で、ヒトに対して行った第3者試験はほぼ特保に準じる基準で実施されたという。
この時、何が起きているのか。研究グループは、この抗肥満作用のメカニズムについて、一般的なHFCS(High-Fructose Corn Syrup:異性化液糖)を摂取すると、果糖により食欲が増し、燃焼しきれない炭水化物が脂肪へと合成されるが、そこに希少糖が加わることで、脂肪の合成が抑制されるようになり、炭水化物が燃料に回されやすくなるというものを推定している。
米国への進出もすでに開始 - 産官学連携の成功例を目指す
すでにRSSの安全性確認はほぼ終わっており、6月よりこれまでの(同社本社がある)香川県のみでの販売から、全国展開へと拡大される。また、香川県に量産工場の建設も進めており、2013年の春には月1000tの生産能力での稼働を予定するほか、D-プシコースそのもののビジネス化も進めており、すでに特保の申請済みとのことで、2~3年後には審議を終え、販売できる見込みだという。
なお、今後については香川大学などと従来以上の連携を進め、D-プシコースやD-アロースに続く希少糖の開発を進めるほか、植物に用いると病害虫に対する防御作用が増強されたり、発芽の制御や成長抑制が可能になるなど面白い成果も出てきており、そうした応用展開も進めていくとする。また、肥満大国と言われる米国でのビジネス化も推し進めており、すでに米国食品医薬品局(FDA)の承認取得に向けた行動を開始しているとのことで、「香川から日本へ、日本から世界へと希少糖の推進によりマーケットを確立し、うまくいかないといわれる産官学連携をなんとか成功させたい」と意気込みを語っている。