電力と温度の関係

熱抵抗(RθJA)は、シリコン接合部から周囲に熱を伝達するパッケージの能力を記述するのに使用される項です。熱抵抗が小さいほど、デバイスは大量の熱をより効率よく伝達することができます。RθJAは℃/Wの単位で表現されるため、(消費される)電力(W)を温度(℃)に関連付けることができます。

最近のパワー・デバイスのデータシートでは、RθJA値を非常に低く記載する傾向がありますが、システム設計者は最終製品で期待性能を達成しようとするなら、PCBのボード・レイアウトおよび熱設計に十分注意を払う必要があります。NCP1529のデータシートには、デバイス単体でのRθJA(μDFN-6パッケージで220℃/W)と推奨ボード・レイアウトでの使用時のRθJA(40℃/W)も記載されています。この数字は、PCBデザインが熱抵抗に大きな影響を及ぼすことを示しています。実際、メーカーの推奨事項に従うことによって、有効なRθJAが1/5に減少する場合があります。

RθJAとPDIP(max)の両方が分かれば、次式を使用してアプリケーションの最大許容周囲温度を計算することができます。

ここで、TJmaxは、許容される最大接合部温度です(NCP1529では150℃)。

NCP1529がTSOP-5およびμDFN-6パッケージで提供されていることを考慮すれば、アプリケーションの動作エンベロープに関するそれぞれのオプションの効果を迅速に評価することができます。表1に、各ケースに対する消費電力、パッケージ熱抵抗、および最大周囲温度計算値の概要を示します。

表1 電気的領域と熱領域間の変換

この表は、コンバータが最大予測周囲温度まで正常に動作する必要がある場合は、パッケージの選択が重要な問題になることを示しています。

アプリケーションの性能に対するパッケージ熱特性の影響を評価するもう1つの方法は、電力ディレーティング曲線を調べることです。NCP1529について公表されている曲線を図2に示します。この曲線は、μDFN-6およびTSOP-5パッケージでの最大周囲温度スレッショルド対消費電力を詳細に表しています。

図2 ICの電力ディレーティング特性

70℃未満では、TSOP-5およびμDFN-6パッケージの両方とも、720mWの電力を消費できるため、このアプリケーションでの最悪場合の要件を満たすことができます。ただし、μDFN-6パッケージでは、電力消費能力が向上しているため、TSOP-5系パッケージに基づく同等なコンバータ・デザインによって維持できる以上に高い最大温度が許容されます。

μDFN-6パッケージの性能上の優位性は、熱的に強化された構造である、ダイからアプリケーションPCBまでの熱抵抗を大幅に低減する露出金属パッドを装備していることで説明がつきます。

熱設計ガイドライン

各計算において、TAに対する値は、可能な最良の熱抵抗、つまり推奨ボード・レイアウトを使用したときに達成される熱抵抗を想定しています。前述したとおり、ボード・レイアウトはデバイスの熱性能、したがってアプリケーションに重大な影響を与える可能性があります。DC/DCコンバータICを使用する設計者は、デザインがハードウェアで実装されるときに、期待性能が確実に達成されるように、選択した部品に関する資料を調べる必要があります。

熱放散ビア、主要トレース幅の最大化、グランドまたは電源プレーンへの熱的接続作成、絶縁金属基板などの熱的に強化されたPCB材料の指定といった特長を用いて、熱性能を最適化することができます。NCP1529のための熱レイアウト・ガイドラインは、VINトレースを大きくし、いくつかのビアを追加して、電源プレーンへの複数の熱的接続を作成することを推奨しています。また、レギュレータのグランド・ピンをPCBのトップ・プレーンに接続することも推奨されています。トップ、ボトムおよびすべてのグランド・プレーンをフリー・ビアを使用して接続し、ラジエータの有効サイズを大きくする必要があります。また、これらのグランド・プレーンはできる限り近接しているか、理想的には、μDFN-6パッケージ使用時には露出パッドの下に位置する必要があります。μDFN-6の露出パッドはPCBのメイン・ラジエータに正しく半田付けしなければなりません。

当然ながら、設計者はボード・レイアウトがコンバータの電気的性能に与える影響も考慮する必要があります。最適な熱レイアウトでは、高電流パス用の大きなトレースや独立した電源プレーンおよびグランド・プレーンなどの特徴を完全なものにしなければなりません。これがレギュレータの雑音余裕度やループ安定性の向上に役立ちます。

図3に、電気的および熱的検討事項に配慮した、μDFN-6パッケージNCP1529使用時の推奨パッド・レイアウトを示します。赤の矢印はパッケージから周囲への熱エネルギーの流れを示しています。

図3 NCP1529 UDFN-6の推奨ボード・レイアウト

結論

設計者は、今日のモバイル製品の厳しいスペース制約内で高性能DC/DCコンバータを実装するためには、動作条件、電力損失、コンポーネントの性能、および熱設計に注意を払う必要があります。優れた熱特性を備えた最新の小型パッケージ・テクノロジにより、従来のパワー・パッケージよりも高い損失に対応できます。これらのテクノロジをボード・レベルで最良の熱設計と組み合わせることにより、コンパクトな寸法で信頼性の高い高電流デザインを採用したポータブル・システムを実現できます。

著者紹介

Bertrand Renaud
Application Engineer, Low Voltage Power Management
ON Semiconductor