フリー課題

フリー課題では、特に決められた課題はなく、ロボットごとにテーマは自由だ。

大阪大学(多田隈助教)の「Tri-Cylinder型円形断面クローラロボット」は、ユニークな移動機構を持つロボット。細長い俵状のクローラが3本付いているが、このクローラは縦方向の回転だけでなく、横方向の回転も可能。ロボカップなどで良く使われるオムニホイールのクローラ版とでも言うべきもので、これにより、前後進、左右移動など、自在な移動が可能になる。

クローラが特徴の大阪大学のロボット。前面にはカメラも内蔵されている

クローラは縦方向・横方向のどちらにも回転が可能なように工夫

元々はレスキュー用を想定し、クローラは2本のタイプが開発されていたが、今回JAXAとの共同研究では、1本追加した3本タイプを開発。これが3角柱のように配置されており、どのように転倒しても問題ないようにした。

「オムニクローラ」により、移動や回転など自在な動きが可能だ

茨城大学(城間研究室)の「LunarSEEN」は、通信タイムラグがある環境下での遠隔操作方法を研究したもの。月面との通信には、最低でも数秒の遅れが発生するため、そのままでは遠隔操作がやりにくい。この研究では、画面上にタイムラグのない仮想的なロボットを表示、オペレータはその仮想ロボットを操作して、実際のロボットはその動きに追従するという仕組みを取り入れた。

茨城大学の「LunarSEEN」。ステレオカメラと魚眼カメラを搭載している

仮想ロボット(緑)はタイムラグがないので、地上と同じように操作できる

産業技術総合研究所(有隅主任研究員)の「キャスティング作業システム」は、クレータ中央丘に登っていくのではなく、麓からロボットやセンサーを投げてしまえばいいじゃないか、と発想を大転換したもの。なんともユニークな考えだが、これならば、途中にどんな悪路があろうとも、無関係に飛び越えて目的地まで行くことができる。ワイヤーを付けて投げれば、回収も問題ない。

システムの概要。投げてしまえば、山頂だろうと谷底だろうと問題ない

投擲のために、キャスティングマニピュレータという装置を開発。ハンマー投げと同じように、高速に回転運動してからタイミングよくリリースすることで、遠くの目標を狙う。当然のことながら、投擲の精度が重要となってくるが、現状では距離に対して6%程度とのことで、今後はこの改善も課題だろう。残念ながら実機の展示はなく、紹介はビデオのみだったので、以下の動画を参照して欲しい。

月面ロボットチャレンジに関するJAXAの紹介ビデオ

この成果をどう活かせるか

月面ロボットチャレンジは、2011年度が最終年度。研究成果の確認として、この実験が行われたわけだが、今後はどうなるのか。実はそのあたりが見えていない。

日本は産業用ロボットやヒューマノイドロボットなどの分野で世界をリードする技術を持つが、それに比べると、宇宙ロボットの分野はコミュニティも小規模。月面ロボットチャレンジのプログラムは、従来の宇宙分野以外のロボット研究者・開発者にも興味を持ってもらい、優れたアイデアや要素技術の獲得に繋げることも狙いだった。

しかし、そのためには継続した取り組みが必要となる。JAXAは以前、情報交換や技術交流を目的とした「宇宙ロボットフォーラム」を立ち上げたことがあるが、盛り上がりに欠け、続かなかった。月面ロボットチャレンジは、中央丘の探査や拠点の建設という具体的で分かりやすいテーマを掲げて再出発したもので、それ自体は評価できる。

ある程度の知名度も得られた今、より多くの参加を得るために、本来なら新しい課題を設けるなどして続けるべきだが、予算的な問題もあり、その予定は今のところない。JAXA月・惑星探査プログラムグループの西田信一郎氏は、「研究会など何らかの形で続けていきたい」と、継続の意志を示しているものの、先行きは不透明だ。

そもそも、であるが、本当に日本は月を目指すのか。政治主導を謳って宇宙開発戦略本部が発足した後、およそ1年に渡り、「月探査に関する懇談会」において、月探査戦略について議論。2010年7月に「2015年に着陸機を送って予備的な探査を行い、2020年に基地構築やサンプルリターンを実施する」とする報告書をまとめたが、その後の動きは鈍い。

言うまでもなく国の予算状況は厳しい。宇宙分野においても、あれもこれもと何でもやれる余裕はなく、その中で成果を出すためには、選択と集中がこれまで以上に求められるだろう。長期的な戦略の構築が急務と言える。